Mitsubishi
Heavy
Industries
PROJECT STORY
核融合炉
Heavy
Industries
エネルギーの長期安定供給と
環境問題の克服。
人類の叡智を結集した
核融合実験炉建設とは。
INTRODUCTION
エネルギーの長期的な安定供給と地球規模の環境問題の克服を両立させる、未来のエネルギー源として期待されているのが「核融合」だ。この核融合反応を利用した発電を行う核融合炉を実現することを目的に、世界7極(日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インド)による核融合実験炉イーター(以下、ITER)の建設がフランスで進められている。三菱重工はこのITERプロジェクトに参画し、ITERの核心部分を担う機器の製作を担当。人類にとって「夢のエネルギー」ともいわれる核融合エネルギーの実現に向けた取り組みを加速させている。
※核融合反応:重水素と三重水素の原子核を融合させ、巨大なエネルギーを発生させる反応。1gの少量の燃料から石油8トンに相当するエネルギーを得ることができるとされている。また、核分裂エネルギーを利用する原子力発電とは異なるため、安全性が高いとされている。燃料となる重水素、三重水素の原料となるリチウム資源は海水中に無尽蔵にあり、二酸化炭素を排出せず、環境負荷も低いことから「夢のエネルギー」といわれている。
許容誤差はわずか1mm以下。
過去例のない巨大構造物の製作に挑む
ITERプロジェクトは、2007年に発足した国際事業体イーター機構(以下、ITER機構)が、機器・設備の設計、建設、運転、廃止措置等を担い、参加7極が機器・設備の製作を担う「物納方式」が採択されている。日本では国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(以下、QST)が代表機関に指定され、日本が製作分担する機器・設備等の調達活動を担っている。三菱重工は、その中の重要機器の一つである、トロイダル磁場コイル(以下、TFコイル※図参照)のコイル容器の製作を担当している。
※TFコイルは、高さ約 16.5m、幅約 9m、重量約 300トンのD型の超伝導コイルであり、18基が真空容器を取り囲むように放射状に並び、高温かつ高密度のプラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生。ITERでは、TFコイルを19基(予備1基を含む)製作し、そのうち9基(予備1基を含む)を日本、10基を欧州が分担して製作。TFコイルの内側構造物は、全19基分を三菱重工の二見工場で製作。巻線部を三菱電機が製作し、外側構造物は韓国で製作して、二見工場で一体化。
TFコイル1号機の製作は、現在(2019年12月取材時)、一体化組立の最終工程を迎えており、その製作に2016年から携わってきたのが原子力工作部の山中惇也だ。
「コイル容器は、TFコイルに作用する非常に大きな電磁力を支えながら、-269℃という厳しい環境にも耐えうる極厚の特殊なステンレス鋼を構造材料としています。その材料特性に適した溶接技術や機械加工技術などの基盤技術、そしてITER特有の要求仕様(高精度)を満たす施工法を確立する必要がありました」
山中が初めて取り組んだ一体化組立に係るインボード側の組立では、片側15mの3次元形状の溶接線全線に対して、隙間0.5mm±0.25mmの誤差以内で合わせることが要求された。金属を溶接すると局所に高い熱が入射し、熱膨張・収縮を繰り返す際に変形が起こってしまうが、この巨大な構造物で許容できる変形は、ごくわずか。そのため溶接時の変形の動きをモニタリングしつつ溶接手順を調整するなど、要求精度の実現に向けて取り組むべきことは山のようにあった。
「過去に経験のない高精度、製造技術が要求される作業であり、そのため要素試験や実機大模型を用意してのプロセス検証を繰り返し実施しました。理論上では、高精度の達成を確認できていたものの、初めての取り組みであり、完了するまでは半信半疑。そうした模索の中、実際の溶接組立で目標の水準を達成できたことは大きな自信につながりました。成功後は、他の工程で同様の精度要求があっても、事前に十分な作業計画さえ作り込めば達成可能なのだという確信が得られ、次の製作に臨むことができました」
この成功で得られた製造技術の知見が、様々な製作過程の作業にも反映された。こうした試行錯誤の取り組みが、三菱重工の技術力の維持向上につながっている。
山中は、就職活動時、三菱重工の工場設備の大きさを目の当たりにして、そのスケールの大きさに「社会的インパクトが大きなものづくり」に携わることができると感じて入社を決めた。そして、十数年経った今、社会的かつ世界的にもインパクトが大きなITERプロジェクトに参加している。
「本プロジェクトのような高精度の製品に取り組む中で、当社の技術力の高さを改めて認識できました。しかしそこに安住するのではなく、国内外の同業他社とも切磋琢磨しながら、今後も技術力の維持向上に継続的に取り組んでいきたいと考えています」
日本という看板を背負い、
使命を果たすための挑戦は続く
本プロジェクト全体をマネジメントしているのが、FBR・核融合推進グループの藤原英弘だ。藤原は、当初TFコイル・巻線部の溝を封止するカバープレートの製作に従事していたが、その後QSTへ3年間出向。直接ITER機構とやり取りする中で、ITERのニーズ把握・理解に努めた。その過程で、ITERの建設サイトであるフランスのサン・ポール・レ・デュランスを訪問する機会も得た。
「建設サイトの規模の大きさに驚嘆しました。自分たちの手がけているものが、この地に設置されること、世界中の技術者が集まっていることに興奮しましたし、人類初のチャレンジにかける熱気も伝わってきました。核融合発電の実現は世界のエネルギー環境に大きなインパクトをもたらすものであり、それは世界に豊かさをもたらす可能性を秘めています。三菱重工にしかできない自負を持ってプロジェクトを進めていきたいと、強く思いました」
そう語る藤原は、大学では建築・土木を専攻、ものづくりに携わりたいと考えていた。やがてその想いは、建築という枠の中には収まらなくなり、そして、就職活動で出会ったのが三菱重工だった。三菱重工がものづくりに有する伝統と格式に共感し入社を決めた藤原は、現在、プロジェクトマネジメントの一環として、主にお客様であるQSTの技術的窓口を担当している。
「TFコイル製作の過程では工作、設計、品質保証において、詳細なスペックが要請されます。スペックは、絶対必要なものもあれば、あったらいいもの、技術的限界で不可能なもの、当社見解として必要ないと判断するものもあります。たとえば“計測”というテーマ1つにおいても、製作現場は精度を重視するが、お客様は計測方法に重きを置く、といったことが起こり、当然意見が対立する場合もあります。私が目指すのは、主張や意見が錯綜する中で、TFコイルに関わる関係者のベクトルを一つにして、最善の着地点を見出していくことです」
そのために、地道に粘り強く対話を継続していくこと。それが自らに課したミッションでもある。
「ITERプロジェクトは、国際協調で取り組むところに世界的かつ人類的な意義があると思っています。当社はその中で日本という看板を背負い、このチャレンジを遂行していく使命がある。新しいことへのチャレンジは、不安もあり、厳しい局面も少なくありませんが、それでも高い志と強い意志で進めていくことが、次の時代を創造することにつながっていくと確信しています」
TFコイルに留まらない、新たな案件獲得を目指す営業活動
三菱重工はITERプロジェクトの初期段階から関わっており、受注したTFコイルは製作のフェーズにあるが、それで営業活動が終わったわけではない。2019年4月にITERプロジェクトの営業担当となった、赤窄尚子はこう語る。
「日本サイドには、TFコイルに限らず、今後、プラズマ安定閉じ込めに不可欠なダイバータやプラズマ計測装置、加熱装置などの重要な機器を提供することが求められており、それらの受注に向けた活動を技術スタッフと連携して進めています。また一方で、TFコイル製作に付随する新たなニーズへの対応も求められます。様々な追加要求に対して、価格や契約条件を取りまとめて提案。お客様であるQSTと協議や説明を重ね合意形成し、都度契約内容を見直していくことも重要な役割の一つです」
赤窄はそれまで原子力発電の海外輸出営業を担当していたが、今回は、実際のものづくりに深く関わった初めてのプロジェクト。契約形態が複雑であり、ビジネスパートナーも国内外に多数存在する。プロジェクトのスケールの大きさに圧倒されつつ、TFコイル製作に伴う設計や検査業務、加工作業など、製作の現場の知識を貪欲に吸収し、日々顧客との交渉や社内調整に奔走している。かつて、ある追加作業で自社作業内容や見積の妥当性を説明したが、赤窄よりもはるかに知識がある顧客から容易に納得を得られず、協議が難航したことがあった。
「自分なりに作業内容を勉強し説明に臨んだつもりでしたが、今思うと、過去の経緯を把握し、お客様との合意形成に向けた調整方法を検討するなど、もっと事前準備をすべきでした。お客様との営業窓口として交渉の前線に立つ自分が納得するまで徹底的に現場や技術、作業工程を把握しなければならない、わからないことは担当部門に質問して理解を深めねばならない必要性を痛感しました。毎日が勉強ですが、その過程を通じてプロジェクト全体を俯瞰する知見を身に付け、社内外から信頼される営業担当に成長したいと考えています」
スケールの大きなものづくりにロマンを感じ、三菱重工の発電プラントをはじめとした製品に惹かれて入社した赤窄。開発途上国のインフラ整備に携わり、その発展に寄与したいという気持ちもあった。その想いは、ITERという、人類が初めてチャレンジする意義あるプロジェクトへの参加というカタチで現実のものとなっている。今、赤窄は三菱重工の高い技術力を背に、ITERの次の案件獲得に向けた取り組みを進めている。その原動力となっているのは、ITERに三菱重工の技術・製品の導入を通じて、社会へ、世界へ貢献したいという想いにほかならない。
このように、営業担当である赤窄が一連の流れを把握する中で、マネジメントを担当する藤原がITER機構やQSTの要望を的確に把握し、それを製作現場の山中が具現化していく。こうした有機的な連携・協働、強固なチームワークがプロジェクトを前に動かす力となっている。
赤窄は、最前線で顧客と接し、情報を収集しつつ、社内のプロジェクトメンバーと共に顧客のニーズに応えていくという営業の業務に大きなやりがいを感じている。
ここでは3人にフォーカスしたが、ITERプロジェクトに参加している三菱重工のスタッフは約200名。ITERの建設サイトであるフランスにも技術者が派遣されている。2025年にはITERが稼働する予定であり、期待される核融合による本格発電・実用化が見込まれるのは今世紀半ば。三菱重工は、日本代表の責務と使命を担い、世界と共に挑み続ける。
PERSONAL DATA
パワードメイン 原子力事業部
原子力工作部
大型機器工作課
主任
2007年入社
工学部機械工学科卒
パワードメイン 原子力事業部
新型炉・原燃サイクル技術部
FBR・核融合推進グループ
主任
2008年入社
工学研究科建築土木学専攻修了
パワードメイン 原子力事業部
原子力部
新型炉・新製品課
2010年入社
法学部卒