FBRの技術開発

我が国における開発状況

  • FaCTプロジェクト(2006~2010年度)では、ナトリウム冷却高速炉(ループ型炉)を対象に、実証炉及び実用炉(実用化像)の検討が行われました(注1)
  • プロジェクト中断後、我が国の高速炉開発方針(注2)は、「高速炉開発会議」が策定後、原子力閣僚会議(2016年12月21日)で決定され、この方針を踏まえ、高速炉開発の「戦略ロードマップ」(注2)が2018年12月に策定されました。
  • 「戦略ロードマップ」では、ナトリウム冷却高速炉とMOX燃料の組合せが国際的に最も実績があり、今後の開発に当たり、国際協力により、研究基盤や規制に関する知見等を共有しつつ取組むことが示されました。
  • これに基づき、当社はループ型炉(JSFR)の開発に続き、日仏ASTRID協力で得られたタンク型炉(注3)共同開発の成果や知見等を最大限に活かし、タンク型炉の我が国への適用性検討(原子炉構造の耐震性評価等)を行い、現在、タンク型炉のプラント概念検討を進めています。
    • 3海外では「プール型炉」とも呼ばれています。我が国では「タンク型炉」と称する場合が多く、以下、「タンク型炉」を用います。(詳しくは、こちら
  • なお、「戦略ロードマップ」は2022年12月に改訂され、開発を優先すべき冷却材としてナトリウムが選定されると共に、今後の開発の作業計画が以下のとおり具体化されました。(注4)
    2023年夏:炉概念の仕様と中核企業を選定
    2024年度~2028年度頃:実証炉の概念設計・必要な研究開発
    2026年度頃:燃料技術の具体的な検討
    2028年度頃:「現実的なスケールの高速炉の運転開始に向けた工程検討」への移行判断
  • これを受け、当社は現在、三菱重工とともに、2023年夏に向けて炉概念の仕様を提案すべく、タンク型炉のプラント概念検討と関連する研究開発を推進しています。

ループ型炉(JSFR)の仕様(例)

以下、FaCTプロジェクト(ループ型炉(JSFR))の仕様例を示します。

電気出力
  • 150万KWe
ループ数
  • 2ループ(1タービン)
原子炉出入口温度 550℃/395℃
燃料
  • 混合酸化物(MOX)燃料
発電効率 42.5%

ループ型炉(JSFR)での採用技術

  • ループ型炉(JSFR)の概念は、我が国の技術的知見を活かし、多くの革新的技術を取り入れて安全性及び信頼性、並びに経済性の向上を目指し、構築したものです。

ループ型炉(JSFR)の技術開発

高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」-フェーズⅡ技術検討書‐06.4

安全性向上に係る課題

  • 受動的炉停止と自然循環による炉心冷却
  • 炉心損傷時の再臨界回避技術
  • 大型炉の炉心耐震技術

安全性向上に係る課題 詳細

炉心安全性の向上

(1)受動的炉心停止と自然循環による炉心冷却
  • パッシブに作動する炉停止システム(SASS)、及び完全自然循環方式の崩壊熱除去システムの採用により、経済性とともに安全性の更なる向上を図る設計としている。
  • SASSについては、実用炉用のSASSの制御棒保持力、切離れ温度、応答性に関する設計条件の充足性を確認した。
  • 完全自然循環方式の崩壊熱除去システムについては、崩壊熱除去特性評価の成立性、DRACS用熱交換器及びPRACS用熱交換器の除熱性能の成立性、改良9Cr鋼薄肉管の製作性、運転性、保守・補修性、建設コスト等を試験や解析等により評価した。
SASSの基本構造
SASSの基本構造
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.105 図3.1-2より転載
DRACS×1系統とPRACS×2系統による除熱システムの模式図
DRACS×1系統とPRACS×2系統による除熱システムの模式図
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」 P.109 図3.1-11より転載
(2)炉心損傷時の再臨界回避技術
  • パッシブに作動する炉停止システム(SASS)、及び完全自然循環方式の崩壊熱除去システムの採用により、経済性とともに安全性の更なる向上を図る設計としている。
  • SASSについては、実用炉用のSASSの制御棒保持力、切離れ温度、応答性に関する設計条件の充足性を確認した。
  • 完全自然循環方式の崩壊熱除去システムについては、崩壊熱除去特性評価の成立性、DRACS用熱交換器及びPRACS用熱交換器の除熱性能の成立性、改良9Cr鋼薄肉管の製作性、運転性、保守・補修性、建設コスト等を試験や解析等により評価した。
  • 炉心損傷事故時に、溶融燃料を炉心外に排出する経路を取り付けた集合体の採用により、溶融燃料の再臨界を回避しつつ冷却するシステムを確立し、事故時の安全性向上を図る設計としている。
  • これらの革新技術は炉心損傷事故シナリオ成立性を確認した。
再臨界回避シナリオ
再臨界回避シナリオ

耐震性の向上

(3)大型炉の炉心耐震技術
  • パッシブに作動する炉停止システム(SASS)、及び完全自然循環方式の崩壊熱除去システムの採用により、経済性とともに安全性の更なる向上を図る設計としている。
  • SASSについては、実用炉用のSASSの制御棒保持力、切離れ温度、応答性に関する設計条件の充足性を確認した。
  • 完全自然循環方式の崩壊熱除去システムについては、崩壊熱除去特性評価の成立性、DRACS用熱交換器及びPRACS用熱交換器の除熱性能の成立性、改良9Cr鋼薄肉管の製作性、運転性、保守・補修性、建設コスト等を試験や解析等により評価した。
  • 炉心及びプラント主要機器の耐震性を向上させるため、原子炉建屋に水平免震を採用して、立地条件にかかわらず建屋設計を標準化できる設計を目指している。
  • 群振動試験及び再現解析を実施し、炉心の(3次元)群振動解析手法を整備した。
原子炉建屋概念立面図
原子炉建屋概念立面図
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載

信頼性向上に係わる課題

  • 配管2重化によるナトリウム漏えい対策と技術開発
  • 直管2重伝熱管蒸気発生器の開発
  • 保守、補修性を考慮したプラント設計と技術開発

信頼性向上に係わる課題 詳細

ナトリウムの取扱技術

(4)配管2重化によるナトリウム漏えい対策と技術開発
高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載
  • 冷却系のナトリウム配管を2重化し、2重配管の隙間を区画化して窒素を充填しておくことにより、仮に内管が破損した場合でもナトリウムの漏えい量を限定でき、かつ、燃焼、飛散を防止し、復旧作業を容易にすることを図る設計としている。
(5)直管2重伝熱管蒸気発生器の開発
  • 伝熱管に2重管を採用することで、ナトリウム-水反応を排除し、稼働率や安全性を向上させた信頼性の高い蒸気発生器(SG)としている。
  • 大型化及び直管2重管構造に伴う主要構造物内の熱流動特性の評価、ナトリウム漏えいを早期に検出するためのリーク検出計開発、及び安全論理構築のためのナトリウム-水反応評価手法の高度化を実施した。
直管2重伝熱管蒸気発生器の開発
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」-フェーズⅡ技術検討書-06.4
(6)保守、補修性を考慮したプラント設計と技術開発
  • 超音波を用いた探傷技術、及びナトリウム内でも目視可能な検査技術を開発して、保全を容易と するプラントを目指している。
プラント設計
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」-フェーズⅡ技術検討書-06.4

経済性向上に係わる課題

  • 配管短縮のための高クロム鋼の開発
  • システム簡素化のための冷却系2ループ化
  • 1次系冷却系簡素化のためのポンプ組込型中間熱交換器開発
  • 原子炉容器のコンパクト化
  • システム簡素化のための燃料取扱系の開発
  • 物量削減と工期短縮のための格納容器SC造化
  • 高燃焼度化に対応した炉心燃料の開発

経済性向上に係わる課題 詳細

建屋容積・物量の削減

(7)配管短縮のための高クロム鋼の開発
溶接継手 試験片
溶接継手 試験片
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載
  • ステンレス鋼に比べ熱膨張率が低く、かつ強度が高い高クロム構造材を冷却系配管に使用して配管の短縮化を図り、物量の削減を図る設計としている。
  • FBR用改良9Cr鋼の高温における材料強度基準を整備した。材料強度基準における製品形状毎の許容値策定の要否を判断したうえで、「高速実証炉高温構造設計方針材料強度基準等(案)」(DDS)に倣って設計評価に適用可能な材料特性を提示した。
  • FBR用改良9Cr鋼の最適な溶接施工技術を開発中である。Type-Ⅳ損傷を考慮した改良9Cr鋼溶接継手のクリープ強度評価法、クリープ疲労強度評価法の案を提示し、材料試験データを用いて妥当性を確認している。
(8)システム簡素化のための冷却系2ループ化
エルボ部の流況
エルボ部の流況
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載
  • 冷却系を2ループとして、システムを簡素化し、物量の削減を図る設計としている。
  • 2ループ化に伴い配管径の増大を抑えるため、冷却材の流速を速くしたことから、配管系の破損につながる振動や材料損耗が発生しないことを実証試験等で確認中。
改良9Cr-1Mo鋼大口径薄肉配管を用いた2ループシステム
改良9Cr-1Mo鋼大口径薄肉配管を用いた2ループシステム
出典:JAEA-Evaluation2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.107 図3.1-8より転載
(9)1次冷却系簡素化のためのポンプ組込型中間熱交換器の開発
  • FBR実用炉では、1次冷却系の熱交換器にポンプを内蔵することにより、冷却系物量の削減を図る設計としている。
  • ポンプの回転振動が、熱交換器の伝熱管に与える影響が小さいことを、解析及び試験により確認した。
1/4縮尺 ポンプ組込み
1/4縮尺 ポンプ組込み
中間熱交換器(IHX)試験体
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載
機器合体のコンセプト
機器合体のコンセプト
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.108 図3.1-9より転載
(10)原子炉容器のコンパクト化
  • 原子炉上部に設置可能な小型の燃料交換用機器を開発し、原子炉容器をコンパクト化して、物量の削減を図る設計としている。
  • 原子炉上部液面からのガス巻込みを防止する構造を流動解析と水流動試験により開発した。また、熱過渡を緩和するための構造評価技術を開発した。
1/10縮尺 ガス巻込み試験体
1/10縮尺 ガス巻込み試験体
JSFR原子炉構造概念図
JSFR原子炉構造概念図3.1-7)
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.106 図3.1-5より転載
(11)システム簡素化のための燃料取扱系の開発
  • 燃料取扱系のシステムを簡素化し、物量及び廃棄物の低減,燃料交換時間の短縮を図る設計としている。
簡素化燃料取扱いシステムにおける評価対象技術
簡素化燃料取扱いシステムにおける評価対象技術
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.109 図3.1-12より転載
(12)物量削減と工期短縮のための格納容器のSC造化
  • 鋼板コンクリート(SC)構造の採用により、矩形形状の格納容器とすることで、建屋容積の削減,建設工期の短縮を図る設計としている。
  • SC構造の工法開発,強度試験を実施中である。
SC造格納容器概念図
SC造格納容器概念図
出典:JAEA-Evaluation 2011-003「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCTプロジェクト)-フェーズⅠ報告書-」P.110 図3.1-13より転載

高燃焼度化による長期運転サイクルの実現

(13)物量削減と工期短縮のための格納容器のSC造化

  • 両スリング性と高温強度を両立させたODS(注)被覆管を開発し、高燃焼度を達成する計画である。
  • ODS:Oxide Dispersion Strengthened ・燃料集合体は、FBR実用炉の安全設計論に適合する改良型内部ダクト付集合体を採用し、再臨界の回避を図る設計としている。 ・採否判断結果; ODS鋼被覆管について採用の見通しはあるものの、成立性を最終的に確認できなかったため、代替案を含めた検討を実施し、2013年に判断する。
ODS燃料ピン
ODS燃料ピン
出典:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズⅡ技術検討書」より転載

タンク型炉の開発

  • 上述「我が国における開発状況」に示すとおり、当社は現在、日仏協力等を活用し、タンク型炉のプラント概念検討を進めています。以下に、プラント構成の一例を示します。
  • なお、タンク型炉とループ型炉の違いについては、こちらをご覧ください。

タンク型炉の系統概念(例)

タンク型炉の系統概念(例)
出典:高速炉の国際協力等に関する技術開発(2019年度)
  • さらに、当社が三菱重工と共に実施中の、日仏協力を活用したタンク型炉の主な技術開発状況について紹介します。

タンク型炉の原子炉構造

  • タンク型炉は原子炉容器径が大きく、我が国の地震条件では耐震性の観点で成立が厳しいと考えられておりましたが、耐震性を向上させた構造、及び免震システム等の採用により成立見通しを得ています。
  • 特にタンク型炉の原子炉構造は、耐震評価や熱流動評価に基づく独自の概念を構築しています。
  • 例えば、原子炉容器内の高温部と低温部を分けるプレナム仕切構造には、補強材を設けて剛性を確保するとともに、構造の上下での温度差が小さくなるよう積層板を設置しています。
  • これにより、プレナム仕切構造上下の温度差が低減され、構造健全性が確保できることを3次元熱流動解析で確認しています。

主な技術開発

  • FBRの実用化に向けて、当社は現在、原子力研究開発機構(JAEA)及び三菱重工と共に、下表に示すループ型炉、タンク型炉に共通の開発項目等に対し、試験施設などを用い、研究に取り組んでいます。

実施中の研究開発(例)

開発項目 目的
1 炉心耐震評価手法 地震時、水平時及び上下方向に変位し、相互に衝突する炉心構成要素の群振動挙動を評価可能な手法の開発
2 スロッシング評価手法 地震時のスロッシングにより、原子炉容器のナトリウム液面が原子炉容器天井へ衝突することで発生する荷重を評価可能な手法の開発
3 3次元免震システム 水平免震装置と同程度のスペースに配置が可能で、水平に加えて上下方向の地震力を低減可能な免震システムの開発
4 受動的炉停止系システム 高温で磁力を失う電磁石の特性のみにより、ナトリウムの温度上昇で制御棒の挿入が可能な炉停止システムの開発
5 高温中性子計装 原子炉容器内の高温条件で中性子を計測可能な装置の開発
6 ナトリウム中目視検査装置 超音波を用いて、不透明なナトリウム中での目視検査を可能とする検査装置の開発
7 座屈評価手法 高速炉機器の特徴である薄肉大口径容器の座屈評価手法の開発
8 高温構造材料特性の取得 500℃以上の高温で使用される構造材料の高温長時間材料特性データの取得
出典・参考
  • 三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020)高速炉開発への取組み
  • 日本原子力学会 2022年春の年会 新型炉部会セッション資料「(2)我が国におけるナトリウム冷却高速炉の研究開発及び国際協力」より