プロジェクトの変遷

我が国における高速炉の開発

  • 我が国では、他の先進国と同様に、実験炉、原型炉、実証炉、実用炉(商用炉)と、段階的に開発を進めています。

1. 実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の開発

  • 1960年代より日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構(JAEA))により実験炉「常陽」の開発が始まり、1977年に初臨界に至りました。現在に至るまで、順調に運転を継続し、高速炉(照射炉)として貴重なデータを取得し続けています。
  • 「常陽」に続き、動力炉・核燃料開発事業団(PNC)により、原型炉「もんじゅ」が開発され、発電設備としての技術実証が図られました。「もんじゅ」は1994年に初臨界を達成し、発電を開始しましたが、ナトリウム漏えい事故等を経て、2016年に廃止措置への移行が決定しました。

2. 原型炉に続く炉の開発(中核企業の選定)

  • 原型炉に続く実証炉は、実用(商用)段階の高速炉を見据え、その安全性、信頼性、及び経済性について、運転までを通じて見通していくことを目的としています。
  • 実証炉開発のために電力会社が実施した「電力実証炉研究」及びJAEAなどが実施した「実用化研究」(FaCT)では、ループ型炉である常陽やもんじゅにおいて、国内に蓄積された技術からのつながりも考慮され、三菱重工が提案したループ型炉を基に開発を進める方針となりました。
  • また、国は今後の高速炉開発を明確な責任体制の下で効率的に実施できるよう、中核企業1社に責任と権限及びエンジニアリング機能を集中することを決定し、公募が行われました。
  • その結果、三菱重工が中核企業に選定され、2007年7月に、高速炉開発のエンジニアリングを集中して実施する三菱FBRシステムズ(株)(MFBR)を設立しました。
  • 三菱重工及びMFBRは、「実用化研究」(FaCT)から現在に至るまで、我が国の高速炉開発の中核として、ループ型炉、日仏国際協力によるタンク型炉の開発、及び将来の多様化するニーズに柔軟に対応するための革新的高速炉の開発に取り組んでいます。
原型炉に続く炉の開発

3. 2024年7月における開発状況

  • 我が国の「高速炉開発方針」が、2016年12月に政府決定されました。この方針を踏まえ2018年12月に高速炉開発の「戦略ロードマップ」が策定され、「21世紀半ば頃の適切なタイミングに、技術成熟度、ファイナンス、運転経験等の観点から、「現実的なスケールの高速炉」が運転開始されることが期待される」と記されました。(注1)
  • その後、2022年12月に「戦略ロードマップ」が改訂され、開発を優先すべき冷却材としてナトリウムを選定した上で、今後の開発の作業計画を以下のとおり具体化する旨が示されました(注2)
  • 経済産業省提案型公募にて、高速炉開発事業における炉型仕様とその製造・建設を担う事業者(中核企業)募集が行われました。技術間競争の結果、2023年7月12日に当社提案内容の炉型(ナトリウム冷却タンク型炉)が採択されました(注3)。2024年6月19日、高速炉開発の戦略WGにおいて「研究開発統合組織」の発足が決定し、新しい体制のもと中核企業に選定された三菱重工と共に高速炉の開発を推進してまいります。

    (今後の開発の作業計画)
    2024年度~2028年度頃:実証炉の概念設計・必要な研究開発
    2026年度頃:燃料技術の具体的な検討
    2028年度頃:「現実的なスケールの高速炉の運転開始に向けた工程検討」への移行判断

出典・参考
  • 三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020)高速炉開発への取組み
  • 日本原子力学会 2022年春の年会 新型炉部会セッション資料「(2)我が国におけるナトリウム冷却高速炉の研究開発及び国際協力」より

FaCTプロジェクト(2006~2010年)

高速増殖炉サイクル実用化研究開発
FaCT: Fast Reactor Cycle Technology Development Project)

  • FaCTプロジェクトは、将来のエネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を追求するために開始された国家プロジェクトです。
  • 「エネルギー基本計画」(2003年)、「原子力政策大綱」(2005年)、「第3期 科学技術基本計画」(2006年)、「原子力立国計画」(2006年)。「高速増殖炉サイクル技術の今後10年程度の間における研究開発に関する基本計画」を受け、JAEAが主導して進められました。
  • 中長期的な目標は、実証炉の2025年頃までの実現、2050年前の実用炉の導入を目指し、短期的には、高速増殖炉サイクルの実用化像と実用化に至るまでの研究開発計画を2015年に示すこととされていました。
  • フェーズI(2006年~2010年)では、革新技術の成立性を確認するための要素技術開発とプラント概念検討を行い、2010年度に革新技術の採否可能性の判断が行われました。
  • なお、フェーズIIでは2011~2015年の期間に、フェーズI成果に対する国の評価を踏まえて概念設計を進める計画でしたが、東日本大震災(2011年3月)によって、FaCTプロジェクトは中断されました。
FBRサイクルの研究開発計画
出典: 日本原子力研究開発機構 平成22年11月24日 第1回FaCT評価委員会 資料1-1

SDC/SDGの構築(2011年~)-安全性強化-

  • 2010年10月に開催された第4世代炉国際フォーラム(GIF:Generation IV International Forum)において、当時のGIF議長国であった日本から第4世代炉の安全設計要件を既定する"安全設計クライテリア(SDC)"をGIF標準として定めることを提案し、ナトリウム冷却高速炉を対象として日本主導でのSDCの検討を進めることになりました。
  • SDCは、2017年12月に、国際機関及び各国の規制関係機関のレビューを踏まえたバージョンをGIFが承認し、その後Web公開されています。
  • 一方、実際の設計に適用するためには、より具体化した"安全設計ガイドライン(SDG)"の構築が必要となり、2013年より検討を開始しました。SDGは、SDCの補足技術文書としての「安全アプローチSDG」と、SDCに適合するための設計上の考慮事項を具体化した「系統別SDG」の二つからなります。
  • 「安全アプローチSDG」は、2019年8月に、国際機関及び各国の規制関係機関のレビューを踏まえたバージョンをGIFが承認し、Web公開されています。また、「系統別SDG」は、2019年より、国際機関及び各国の規制関係機関のレビューが開始され、現在、その結果を踏まえた整理が進められています。
安全アプローチSDG
【図】安全基準の階層
出典・参考

ASTRID協力(2014年~2019年)

  • 仏国ではサルコジ(共和党)政権下で2010年からASTRID(技術実証炉:Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)プロジェクトが立上げられました。
  • 2013年6月、日仏首脳会談の共同声明で日仏が高速炉開発で協力することが確認されました。
  • 2014年5月、高速炉開発に関する日仏の政府機関間(CEA/経産省/文科省)取決めが締結され、同年8月、高速炉開発に関する日仏の実施機関間(CEA/AREVA/JAEA/三菱重工/MFBR)取決めが締結されました。

    写真

    ASTRID協力
    出典:首相官邸HP
    (https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8655428/www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201306/07france.html)
  • これを受け、2015年から2019年までASTRID協力(設計協力及びR&D協力)が行われました。本協力を通じ、我が国の実施機関は、仏国のタンク型炉の設計や研究開発に関する技術情報や知見を得ています。

ASTRID(Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)

  • 熱出力:150万kWt、電気出力:60万kWe
  • 炉型:タンク型
  • 炉心燃料:MOX燃料
  • (目的)「第4世代炉の技術実証」実用炉に採用する候補技術及び安全性の実証
ASTRID(Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)
出典:日本原子力研究開発機構 次世代高速炉サイクル研究開発センターHP

ASTRID協力での主要実施項目

分野 目的
1 設計 崩壊熱除去系、自己作動型炉停止機構、免震システム、ポーラテーブル(原子炉容器上蓋)、原子炉構造(コアキャッチャ、炉心上部機構、炉容器内熱流動、原子炉容器の構造健全性、等)
2 炉心・燃料 燃料等の照射計画、高燃焼度被覆管材料、等
3 シビアアクシデント シビアアクシデント事象推移の評価、解析コード開発、等
4 原子炉技術R&D 材料(クリープ疲労等)、計測器(水素計等)、共同試験の検討、等
出典・参考

新たな仏国との国際協力(2020年~)

  • ASTRID協力を踏まえ、仏国との間で引き続き、研究開発を効率的に進めていくこととし、JAEA/三菱重工/MFBRは2019年12月に、CEA及びフラマトム社との間で、新たに実施機関間取決めを締結し、2020年1月よりナトリウム冷却高速炉開発にかかる日仏協力を推進しています。

    写真

    実施機関間取決め調印式
    実施機関間取決め調印式
  • 現在、本取決めに基づき、ナトリウム冷却高速炉の安全性・経済性向上のため、日仏相互の技術を生かしてナ、シビアアクシデント対策、解析コード開発、新型構造検討などの研究開発協力を進めています。

新たな協力で実施中の主要項目

項目
1 シビアアクシデント 7 数値シミュレーションツール
2 化学リスク 8 プラント機器開発
3 構造材料 9 試験施設
4 炉心材料 10 安全
5 燃料技術 11 新型構造
6 検査・計装
出典・参考

タンク型ナトリウム冷却高速炉の検討(2015年~)

  • タンク型炉の国内適用性に関する検討(2015~2019年)
    FaCTプロジェクト及びSDC/SDGで対象としたJSFR(ループ型ナトリウム冷却高速炉)の検討成果、及びASTRID協力の情報等を基に、タンク型炉における大型の原子炉構造を対象とした耐震成立性等の検討により、日本に適用する場合の概略の成立性を確認しました。
  • タンク型炉のプラント概念検討(2020年~)
    FaCTプロジェクトにおける開発目標やSDC/SDGに適合し、概念検討が完了したJSFRと同等の技術成熟度を有するタンク型炉概念の構築を目的として、現在、タンク型炉のプラント全体にわたる概念検討を実施中です。

タンク型ナトリウム冷却高速炉の鳥瞰図(例)

タンク型ナトリウム冷却高速炉の鳥瞰図(例)
出典:三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020) 原子力特集 高速炉開発への取組み
出典・参考

革新的小型ナトリウム冷却高速炉(MCR)の開発(2019年~)

  • 先述の「戦略ロードマップ」を受け、当社は、三菱重工と共に、開発要素の低減と開発期間の短縮が可能で、かつ、投資リスクの小さい電気出力200MWe程度の小型炉概念として、独自の高速炉(MCR;Mitsubishi Compact Reactor)の開発も進めています。
  • 具体的には、2019年度より経済産業省のNEXIP(Nuclear Energy×Innovation Promotion)事業を活用し、検討を加速しています。
  • MCRは、安全性・信頼性を高めるため、受動的炉停止機能の強化とともに、ナトリウム‐水反応等の影響を緩和する技術等を採用しています。
  • また、将来の事業者ニーズに柔軟に対応できるよう、1000MWe級まで出力拡張が容易にできる設計としている点が特徴です。

MCR-200の系統図(鳥瞰図)

MCR-200の系統図(鳥瞰図)
出典:三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020) 原子力特集 高速炉開発への取組み
出典・参考
  • 三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020)高速炉開発への取組み
  • 安全性・信頼性を高めた小型SFRの開発(日本原子力学会2020年秋の大会)
    • (1)開発の概要
    • (2)高い受動的安全特性を有する金属燃料炉心概念の構築
    • (3)小型SFRのプラント概念の構築

日米協力(2022年~)

  • 2022年1月、JAEA/三菱重工/MFBRは、米国エネルギー省(DOE)支援の下、先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)の中で、ナトリウム冷却高速炉「Natrium」を開発する米国テラパワー社との間で「ナトリウム冷却高速炉技術に関する覚書き」を締結しました。また、2023年10月には高速炉実証計画を含むよう、本覚書を拡大しております。
  • さらに2024年1月、JAEA/電中研/三菱重工/MFBRは、米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)との間で高速炉の金属燃料に関する共同研究契約に合意しました。
  • これらの協力により、MFBRは、日米間の高速炉開発協力を発展させていくとともに、高速炉開発に関する技術力の維持・向上につなげていく予定です。
出典・参考
  • プレス文(MFBRホームページ NEWS(2022.1.27)
  • 総合資源エネルギー調査会 原子炉小委員会 第2回 革新炉WG 資料4
  • 日本原子力学会 2022年春の年会 新型炉部会セッション資料「(2)我が国におけるナトリウム冷却高速炉の研究開発及び国際協力」より