世界一のターボチャージャーを目指す、相模原からの挑戦。
自動車のエンジンに搭載されるその装置は、両手に乗るほどのコンパクトなサイズですが、欧州、アジア、そして北米でも大きな存在感を示しています。今まで排気ガスとして捨てていた熱エネルギーを利用し、燃料を効率的に燃やして出力を向上させるターボチャージャーは、省エネや環境負荷低減のための有効かつ現実的な手段であり、年々その需要が高まっています。そして、相模原で生み出されているのが、高い品質に世界が注目する三菱ターボチャージャーです。
第1章 世界から求められる、相模原発の設計技術
相模原にある三菱ターボチャージャーのマザー工場では、24時間体制でロボットが部品を次々と加工して組み込み、ターボの心臓とも言えるカートリッジが形を成していきます。そのすぐ隣で、製品の設計や実験などを行っているのが、MHIさがみハイテックのターボ技術部です。この地で設計されたターボチャージャーは、相模原だけでなくオランダ、タイ、中国、米国でも生産され、世界中の自動車メーカーへと供給されていきます。
設計グループの井草は「設計というと、パソコンや図面と向き合う仕事だと思われるかもしれませんが、当社の場合は、私が直接自動車メーカーの方とお会いして交渉も行います。その中で、業界のトレンドを押さえつつ、メーカーの要求に応えるターボチャージャーを提案できるように努めています」と説明します。設計業務がスタートすると、求められる出力にあった基本仕様のターボを選定し、必要に応じて新しい部品を設計しなければなりません。
エンジンルーム内に収まるように、ターボチャージャーのレイアウトを3D-CADで設計していきますが、タービン入口の排ガスの温度は1000度を超えるものもあり、強度を確保するために熱応力解析なども同時に行う必要があります。万一破損した場合に外部に影響を与えない安全性や、フル回転中にエンジンが急停止した場合の熱の影響など、解析の対象は多岐にわたります。設計が完了すると製品を試作して、メーカーと協力して実験を重ねます。そうした工程を経て、耐久性や環境性能も確認されたターボチャージャーが量産されていくのです。
第2章 ガソリン車の環境負荷低減の切り札として
車のパワーを上げる手段だったターボチャージャーは、地球環境保全の意識の高まりや排ガス規制の強化に伴い、無くてはならない存在になりました。欧州などでは、排気量を小さくしてターボで出力を補う「過給ダウンサイジングエンジン」が一般的になりつつあります。現在、世界で生産される自動車は年間約1億台。うち約半数がターボチャージャーを搭載していると言われ、そのシェアをめぐって三菱重工グループを含む日米の4社が覇権を争っています。
入社14年を迎えた井草は「シェア世界一を目指すというのはもちろんですが、自分が手掛けた車が街で走っているのを見かけた時にも、大きなやりがいを感じています。自動車メーカーの要求に対しては、スピーディに応えることが大切。勉強しなければならないことは多いと感じています」と語ります。最初の配属でエンジンを担当したことで得た経験や知識も生かしながら、さらなる努力を誓っていました。
また、プライベートでは、都会生活で車を必要としなかった井草。父親になって家族が増えたのを機に、自身が携わった車を購入したそうです。「ターボチャージャーが搭載された車は独特の音がすると言いますが、私はほとんど気になりません。最近の車は、音を小さくするという要求も厳しくなっています。普通の乗用車にターボが載っている。それが普通になる時代が来ているではないでしょうか」と次世代のクルマ社会をイメージしながら、ターボチャージャーと真摯に向き合っています。
VISION
ヨーロッパで生産される乗用車には、当たり前のようにターボチャージャーが搭載されています。今後は日本でも、さらに普及が進んでいくと思います。高出力や効率化などは引き続き求められるでしょうが、ハイブリッド車などへの対応も本格的に考えていかなければならないと感じています。