都心の地下を活かす “次世代立体駐車場” -三菱セルパーク(2リフトタイプ)- 誕生
Story1
収容効率に長けた「セルパーク」に求められた進化
昨今、都心の商業施設やオフィスビルでは、利用者の利便性を高める重要な交通インフラとして、立体駐車場が欠かせない存在となっている。
忙しい利用者のための入出庫渋滞の解消、限られた敷地の有効活用など、建物の用途によって求められる性能もさまざまだ。こうした中、三菱重工機械システム(MHI-MS)では立体駐車場の製品ラインアップを拡充し続けてきた。
数字合わせのパズルの要領で空いた空間を利用し、目的位置までパレットを移動させる
なかでも敷地の狭いビルに最適なのが、地下式の立体駐車場「セルパーク」だ。当社製品の中でも高い収容効率と、レイアウトの柔軟性が大きな特徴だが、そのキーポイントは、「水平循環方式」という移動機構を採用していること。
この方式は、運転者が車を乗降室のパレット(車を運ぶ鋼製トレイ)に駐車すると、あとはリフトが車をパレットごと地下の駐車室へと移動。まるでパズルのような動きで、車とパレットを自動的に目的位置まで運んでいく。
高度な機械設計と制御技術を駆使することで、従来困難だった建物の柱や壁を避けて駐車室を設けるなど、建物に合わせて最大限に収容効率を上げるレイアウトを可能にしている。
Story2
収容台数は約2倍、されどお客様をお待たせしない仕組みに
「都心の大型複合ビル」にマッチする駐車場とは?
2016年、このセルパークがさらなる進化を遂げた。
きっかけとなったのは、2014年にスタートした東京都心の大型複合ビルへの導入プロジェクトだ。
この案件の計画立案や設計工事を手掛けたK.Kはこう語る。
「お客様をお待たせしないように入出庫口の動線を2つに分けて、入庫・出庫共にスピーディーに行える駐車場にしたいというご要望がありました。
それが“セルパーク(2リフトタイプ)”を開発するきっかけとなったのです。」
想定収容台数は、これまでのセルパークの2倍近い約70台。都心の大型複合ビルということもあって、
海外自動車メーカーの大型車が収容できることも必須要件となった。
従来製品の大規模駐車場「IPS」であれば、標準で出入り口が2カ所、リフトも2基設置されている。入庫・出庫を同時に行えるため、処理能力は製品ラインアップ中トップを誇る。ただし建築スペースの都合上、提案初期の段階でIPSの適用は難しいと判断された。
カギは“パズルを解く制御システム”にあり
「このプロジェクトだけでなく、最近は都心の地価高騰の影響もあって、駐車場に不向きな狭小地でも収容規模を50~100台と、大幅にUPしたいという需要が高まっていました。」とK.Kは語る。
こうしたニーズにこたえるには、収納効率と省スペース性に優れたセルパークが最適ではあったが、納入には越えるべき課題も多かった。
従来のセルパークは、入出庫口は1カ所で連動するリフトも1基のみ。
当初から機械設計を担当したS.Tは、「設計上、単に収容台数を2倍にすること自体、そう難しい事ではありませんでした。」と話す。
「しかし、ただでさえ複雑なパズル移動に加え、リフト2基の動きに合わせてパズルを解いて動かす制御システムのソフトを、高速に処理することは非常に困難な課題でした。」
Story3
新製品開発レベルとなった、“2リフト”制御システムの構築
実際、電気制御設計を担ったH.Fは開発の難しさをこう振り返る。
「1リフトは1台ずつ順番にタスクを処理すればいいのですが、2リフトとなると入庫と出庫それぞれの乗降室から、複数のタスクを同時に処理しなければいけません。
また、小規模向けのソフトを大規模化するだけでは、システムエラーを起こす危険性も高い。そのため制御システムは、ハード・ソフト共にほぼ1から構築し直す必要がありました。」
収容効率の高さとフレキシブルなレイアウトが特徴
三菱セルパークは車1台分の空きスペースがあれば、碁盤の目のように配置した駐車室が、パズルのように縦横に動いて入出庫を行う。高度な制御システムと機械設計により、敷地面積をフル活用する柔軟なレイアウトと最大収容効率を実現する。
そもそも立体駐車場は「入出庫の待ち時間は5分以内にすること。」という技術基準が、業界で設定されている。当然、このハードルも越えなければ意味がない。
H.Fは新製品と同レベルの開発体制が必要と考え、自社のコアメンバーに加えて三菱重工総合研究所や、外部専門メーカーのソフトウェア技術者に協力を要請。制御システムの開発専門チームを結成し、多彩なノウハウを結集することで、課題を一つずつクリアしていった。
最大の難関であった入出庫それぞれの車を並行して、迅速かつ安全に運ぶ複数タスク処理については、研究所のメンバーから「制約プログラミング技術」が提案された。
これはシステムに「1度に使える電力量の上限」、「同時に動作する装置の数」、「パレットの交差・衝突など、危険動作の禁止」といった制約を設定し、自動的に最短の入出庫ルートと安全な処理を算出させる最新のアルゴリズムだ。
さらに万全を期すために専用のソフト動作検証用エミュレータを開発したほか、社内他部門の「ITS(高度道路交通システム)」の技術者にシステムレビューを依頼。
MHI-MS全社のリソースを活用し、設計から検証の細部に至るまで、制御システムの性能・安全性・信頼性の向上に努めた。
Story4
人間工学の知見も生かし、安全対策の法令改定に初対応
直感的に「安全地帯」が分かる意匠デザインを
またこのプロジェクトではもうひとつ、越えるべき大きなハードルがあった。
機械式駐車場の安全対策強化を目的に、2015 年に国土交通省により駐車場法が改正され、安全機能について認証基準が定められたため、新安全基準への対応が不可欠になったのだ。
以前からMHI-MSはもとより各メーカーは、立体駐車場の事故ゼロを目指してさまざまな対策を講じてきたが、この法改正でさらに厳格な安全対策が求められた。
そこでまず、建築・意匠設計を担うK.Kが取り組んだのが「乗降室の安全性向上」だ。
乗降室に人が取り残されたまま機械装置を動かしてしまうと、人が機械に巻き込まれる事故リスクがある。新基準では万が一の際の退避スペースを、利用者に分かりやすく明示する必要があった。
「三菱重工のデザイン部門の技術者に相談し、意匠設計に人間工学の知見を取り入れました。たとえば、安全地帯に施したユニバーサルカラーのラインマーキングや、誰が見ても一目で分るピクトグラムをデザインに取り入れ、標識や文字の大きさも直感的に分かりやすいものを見出そうと、調整と検証を重ねました。」
乗降室の退避場所のマーキングと非常停止ボタン
乗降室の事故要因を連携アイデアで解決
そして新たに、安全確認用のカメラ・モニタ・各種センサーなど数多くのモジュールを追加したが、機械設計担当のS.Tはそれにとどまらず、安全性への追求は入庫乗降室の旋回装置にもあると語る。
パレットを持ち上げて旋回する従来の旋回装置の採用を検討していたが、事故リスクの低減のため、当初はスペースの関係で断念していたパレットを持ち上げずに床ごと旋回するテーブルタイプの旋回装置を採用すべく、先輩のベテラン設計者に相談。
「ブレインストーミングを重ね、旋回装置の外径とパレットの対角寸法を揃えるアイデアを思いついたのです。このおかげで事故要因を取り除くだけでなく、必要最低限の構成でパレットを旋回する設計プランにたどり着けました。」
昇降デッキ(ハッチング部)が旋回装置と干渉しない位置まで下降し、テーブルがパレットと共に旋回する。旋回装置の径をパレット対角寸法とすることで、昇降デッキの寸法を約60%低減し、旋回停止ずれの許容値を4倍に向上させて、より安全な旋回装置の省スペース設計を実現した。
Story5
都市・クルマ・人をつなぐ、次世代の交通インフラへ
建築設計・機械設計・制御設計。部門の垣根を越えた“オール三菱体制”の開発協力が実を結び、プロジェクト始動から2年を経て、2016年3月に新バリエーションの「三菱セルパーク(2リフトタイプ)」が誕生。MHI-MSにとって安全対策の法改正に適応した第一号製品として記録に残るものとなった。
そして事業主や施工会社からも、独自の機構や安全面への配慮、東京都心という土地柄にあったデザインなどが高い評価を得た。
また一番の課題であった制御システムに、故障や不具合もほとんど起こらず、H.Fは「とにかくほっとしました。」と微笑む。
変わりゆく社会、駐車場に求められるモノ
お客様の要望に全身全霊でおこたえしようと努力した結果、セルパーク(2リフトタイプ)が誕生し、これまで以上に多様なニーズにこたえるラインアップが揃った。
現在、都心では大型の再開発が進行中だが、特にフレキシブルなレイアウトが求められる地下空間を再利用する計画では、このセルパーク(2リフトタイプ)の需要が高まると期待されており、すでに複数案件が進行中である。
今後、都市部への人口集中は確実に加速する。電気自動車や自動運転など、車社会が大転換期を迎えつつあるなか、立体駐車場は都心の重要な交通インフラとしてさらなる進化を遂げるだろう。
変わりゆく都市と車、そして人々を繋ぐ次世代の製品開発を目指して――。
MHI-MSのチャレンジはこれからも続いていく。