#002 西舘 健太『いい風が、吹いている。』

決して能弁なタイプではない。カリスマ的な統率力を発揮して牽引するリーダーとも違う。しかし泥臭くひたむきにプレーすることを身上とするダイナボアーズにとって、SH西舘健太はまさにチームを象徴する存在だ。

佐藤喬輔監督-ジョージ・コニアヘッドコーチ(HC)体制で新たなスタートを切った昨季、キャプテンの大役に任命された。中学1年から続くラグビー人生で、キャプテンを務めるのは初めての経験。当初は戸惑いもあったが、前キャプテンの安藤栄次コーチに助言を受けながら、自分なりのリーダー像を少しずつ確立していった。

「気づいたらシーズンが終わっていた、という感じで、あっという間の一年でした。でもすごく充実していた。体はボロボロでしたが、メンタル的には『もっと試合をしたい』という気持ちでした」

トップイーストでは試合を重ねるごとに調子を上げ、順調に首位で通過。しかし十分な手応えを持って臨んだ入替戦はNECに3-17で敗れ、悲願のトップリーグ昇格を逃した。「チームの雰囲気はすごくよかったのですが、足元がフワフワしたまま試合に入ってしまった。やっぱり入替戦特有の何かがあるのかな、と」。一方で、“新しいチームカルチャーを築き上げる”という取り組みについては、確かな成果を感じた一年でもあった。

「シーズントータルで見ると、いい緊張感を持ってやれるようになったし、本当に新しい風が吹いたと感じます。3年ぶりに復帰したコニアHCも、見た目は一緒でも中身が以前とはまったく違った。“俺がやる”という雰囲気で、厳しさがありました」

2シーズン目を迎えた今季はリーダー陣が昨季の3人から8人に増え、キャプテンを中心に選手がより自覚を持ってラグビーに取り組む環境になった。春は西舘主将を筆頭に軸となる選手にケガが重なったこともあって勢いに乗り切れない時期もあったが、夏合宿ではトップイーストのライバル、日野自動車に56-19と快勝。ヤマハ発動機や神戸製鋼、コカ・コーラとトップリーグの強豪とも体を当て、多くの成果をつかんだ。

「結果的にトップリーグチームには勝てませんでしたが、自分たちにとってはすごく収穫があったし、自信がついた合宿でした。そこで慢心することなく、今はトップリーグ昇格という目標に向かってチーム全体がいい雰囲気でやれていると思います」

戦い方では早いテンポでグラウンドをいっぱいに使うダイナボアーズ伝統のスタイルを継承しつつ、昨年から取り入れた効率よくボールを動かすシステムのブラッシュアップを目指す。この点については、トップレベルでのプレー経験豊富な実力者を多数補強できたことが大きなプラス材料となるだろう。特にFWにはHO安江祥光(日本代表/前神戸製鋼)やLOトーマス優デーリックデニイ(フィジー代表/前トヨタ自動車)、NO8ファイフィリ・レヴァヴェ(サモア代表として2015年W杯出場)ら大駒が加わった。いずれもアスリートとして高い意識を持ち、個で局面を変えられる選手だけに、チームに与える影響は計り知れない。

「去年までに比べFWの雰囲気、一人ひとりの意識が劇的に変わりました。これまではBKが中心だったのですが、今はFWとBKのバランスが高いレベルでとれている。トップレベルを経験してこられた人たちなので自分の意思を明確に持っている一方、チームのシステムや規律に対する意識も高い。僕が何か言うまでもなく引っ張ってくれるので、すごく助かっています」

存在感が大きい選手たちだけに、影響が強く表れ過ぎてチームのこれまでのいい面まで薄れてしまう危険性はないのか。そうたずねると、西舘主将は感心したような表情で即答した。

「加入したみんなに共通することなのですが、『前のチームはこうだったからこうしよう』というのがまったくないんです。まず前提にチームのシステムがある上で、自分の色を出してくれる。むしろ周囲を巻き込んでシステムに導いていく力を感じます。練習中からそういう意識が高いし、他の選手もそれに対して引くのではなく、どんどん乗っかっていく。すごくいい刺激になっています」

さらに付け加える。

「重工には様々なバックグラウンドを持つ選手がいますが、プロ選手の姿勢から社員選手が学ぶことも多い。以前はプロと社員で扱いが違ったりして、それに対する不満の声もあったのですが、今は逆にプロだからこそ厳しさを求められるし、僕ら社員選手は限られた時間の中で最大限努力することを大事にしている。お互いいい意識で高めあえています」

そして、そうした多様な選手が在籍するダイナボアーズは、母体である三菱重工を中心に多くの人のバックアップと協力によって支えられている。会社の敷地内にグラウンドとクラブハウスがあり、社員選手はみなそこで働いているため、ラグビー部と他の社員との距離も近い。熱心に応援してくれるサポーターへの一番の恩返しは、言うまでもなくラグビーで結果を残すことだ。

「重工のファンの応援は本当に熱くてよく響きますし、厳しい試合になるほど、それが大きな力になります。社員選手は職場の理解と協力がなければラグビーをできません。三菱重工というブランドを背負っている以上、その名を全国に広めるという使命もある」

9月11日、ホームグラウンドでの日本IBM戦で、いよいよ今シーズンのトップイーストが開幕する。過去4季連続入替戦で敗れ果たせなかったトップリーグ昇格を遂げるために必要なものは、何なのか。西舘主将が決意を口にする。

「僕は入社11年目で、ようやくここ数年で試合に出させてもらえるようになったのですが、入替戦を戦ってみて思うのは、そんなに差はない、ということです。じゃあ何が足りないかと言えば、勝ちたい気持ちだったり、細かなスキルだったり、一つひとつの練習の積み重ねが大事なんだということを、この4年間ですごく感じた。毎年、昇格目前でファンの方に申し訳ない試合をしていますし、職場の方々にも迷惑ばかりかけているので、今年は何としても結果で恩返ししたい」

かつてない追い風が吹いている今年こそ、絶対に昇格を決める。そして多くの仲間やサポーターとともに、喜びを分かち合いたい。

Published: 2016.09.30