#038 D-DNA特別編 4人の当事者たちが振り返る「2007.1.27近鉄戦」『あの日、歴史が変わった。(前編)』
2007年1月27日は、三菱重工相模原のラグビーの歴史において特別な意味を持つ日だ。この日、チームは花園ラグビー場で行われたトップチャレンジ1第3節で近鉄ライナーズを破り、クラブ史上初となるトップリーグ昇格を果たした。まだダイナボアーズの名が生まれる前の出来事である。
あれから11年。チームは2007-2008シーズンの一季限りで陥落して以降、いまだトップリーグへの復帰を遂げられていない。過去6年はすべて勝てば昇格の入替戦まで進みながら、痛恨の敗戦を喫してきた。
今度こそ。今シーズンこそ悲願のトップリーグ昇格を達成するために、何が必要なのか。どうすれば、国内最高峰の舞台にふたたび返り咲くことができるのか。
12月23日の入替戦までひと月を切った11月末。2007年の近鉄戦勝利を現場で経験した4人の生き証人たちに、当時の回想や大仕事を成し遂げるまでの歩み、そしてダイナボアーズのトップリーグ再昇格にかける思いを語ってもらった。
【出席者プロフィール】
松永 武仁
2006-2007シーズン主務。現チームディレクター。東洋大学出身
佐藤 喬輔
2006-2007シーズンのキャプテン。当時は入社5年目、キャプテン2年目の年。ポジションはNO8。2015〜2017年度監督。現採用・総務担当。早稲田大学出身
三須 城太郎
前所属の三洋電機から2006-2007シーズンに三菱重工相模原に加入。トップチャレンジ1の近鉄戦で後半42分に逆転トライを挙げた。ポジションはWTB。東海大学出身
藤田 幸仁
2006-2007シーズンは入社4年目の年。近鉄戦の後半28分から途中出場。当時の三菱重工相模原でそのゲームに出場した唯一の現役選手。ポジションはPR。中央大学出身
移籍選手が増え、チームの雰囲気が変わったシーズン
――トップリーグ昇格を果たした2006-2007シーズン当時の、みなさんのチームにおける役職や立ち位置について教えてください。
松永 私は主務として、遠征先のホテルの手配をしたり、グラウンドでメンバー交代を担当したりしていました。あのシーズンはトップイーストで全勝し、トップチャレンジ1の初戦で九州電力にボロ負けしたところから近鉄との最終戦に勝って昇格したのですが、九州電力がトップリーグに上がる準備をしっかりとされていたのに対し、こう言っては何ですが我々はそこまで準備ができていなかった。まさか上がるとは、というのが正直なところでした。ちょうどトップリーグが12チームから14チームに拡大され、イーストから日本IBMとセコムが上がった年だったので、チャンスだとは思っていました。ただ力的には九州電力と近鉄より少し劣っているかな…と感じていました。
佐藤 僕はキャプテン2年目のシーズンでした。前年がイーストのプレーオフでNTT東日本(現NTTコミュニケーションズ)に負けて、トップチャレンジに出場できず、個人的にすごく反省するところが多い年だったんです。それを受けての2年目でしたが、ちょうど三須先輩ら移籍選手が増えてきて、外の血が入ることで新しいチームに生まれ変わる最中のシーズンでした。夏合宿の雰囲気がすごくよくて、打ち上げが異常に盛り上がったのを覚えていますね。前の年に比べて、非常にまとまりがありました。
三須 僕はちょうど三洋電機から移籍してきた年で、前年の成績など気にせず、先入観を持たずにやろうと思っていました。移籍したのは、ずっと地元でラグビーをしたいという思いがあって(相模原市出身)。入った時に感じたのは、先輩と後輩の間に溝があるな、と。そこを埋めるために、常に若い選手に声をかけることを心がけていました。
藤田 移籍の人が増えてきてチームが明るくなったな、というのは確かにありました。上下の垣根がなくなってきたというか。
三須 前の年にダマ(児玉智繁/HO、現採用・渉外)と塚ちゃん(塚原稔/PR)が来て、その前が大﨑(大﨑公嗣/LO)だったよね。
――2001年度に東日本社会人リーグに昇格したものの、翌年全敗で関東社会人に降格。2003年からトップイーストに所属し、5か年計画で強化を進めてきた5年目が、この2006-2007シーズンでした。その間、チームはどのように変わっていったのでしょう。
松永 大卒の移籍選手を採るようになって、いろんなチームから来た選手がだんだんひとつにまとまっていって、いい雰囲気ができてきた。相良さん(南海夫/当時監督,現早稲田大監督)も手応えを感じていたと思います。
――相良監督はどういう人物でしたか。
松永 おもしろい人というか(笑)。決して、きっちりはしていないです。
佐藤 いい意味でゆるい。だから選手に任せる部分が多かった。今の早稲田もそうだと聞いています。あとは、ヘッドコーチのスコット・ピアースと相良さんの関係がすごくよかった。ピアースも、きっちりはしてなかったですけど(笑)。
松永 どちらかといえば、主務の僕がきっちりしているタイプで。
(全員苦笑)
佐藤 その年の夏合宿で松永さんがホテルの手配を間違えて、予約していた日数が一泊ぶん足りなかったんです。それで最後の日は別のホテルに泊まったんですよね。
松永 それでも選手は文句も言わずついてきてくれて。今だったら大変でしょうね(笑)。
トップイーストを初の全勝通過も、トップチャレンジ初戦で九州電力に完敗
――その年のトップイーストでは、チーム史上初めて全勝優勝を果たしました。
三須 NTT東日本戦だけ10点差くらいで、それが一番の僅差だったよね。
佐藤 危ない試合はほとんどなかったような記憶があります。下馬評でも、実力的に僕らがイーストでは一番という感じでしたが、足元をすくわれることなく、1試合1試合きちんと勝っていった感じでした。
三須 トップイーストの全勝優勝は初めてと聞いて、成し遂げたんだな、という感覚はありましたね。
藤田 ホッとしたというか、勝って当たり前のところにしっかり勝てたなと。
松永 イーストでは負ける気がしなかったですね。リードされていても取り返してくれるという自信がありました。今までいた選手に移籍してきた選手が混じって、普通ならそれぞれが分かれそうなところだけど、そのまとまりがすごくよかった。高卒で古くからいる佐々木健次(CTB)なんかを、入ってきたばかりの城太郎がすぐいじったりして(笑)。仲がいい中にも厳しさがあって、チームワークがよかった。
――その年はトップイースト、トップウェスト、トップキュウシュウの1位で争うトップチャレンジ1と、各リーグの2位で争うトップチャレンジ2があって、トップチャレンジ1の上位2つに入れば自動昇格というフォーマットでした。ただ、トップチャレンジ1では初戦で九州電力に12−49と敗れています。
佐藤 完敗したイメージしかない。強いな、という印象でしたね。トップチャレンジの初戦で絶対勝たなきゃいけないといって臨んだ試合だったので、正直ショックはありました。
三須 下馬評では、ウチは九電、近鉄の下の3番目という感じだった。また、近鉄より九電の方が強いというイメージで、実際にやってみても、頭二つくらい違うな、という印象を受けました。今のウチの実力では、どう転んでも勝てない相手だったかなと、試合が終わってから思いましたね。
藤田 トップチャレンジ1に出るのが初めてだったので、「こんなにも差があるのか」というのは感じました。
――こういう大敗をすると、落ち込むか、開き直って良くなるかのどちらかに分かれがちです。この時はどうでしたか。
藤田 翌週の第2節で九電が近鉄に勝って昇格を決めたことで、わかりやすかったというのはあると思います。要は、近鉄に1点でも勝てばいい、と。
三須 雰囲気的にガクンと下がることはなかったですね。むしろ明るかった。もちろん負けたことは事実として残ってるけど、それを引きずることはなかった。
松永 九電戦の会場は熊谷だったんですけど、後にGMになる武山さん(信行)から試合中に呼ばれて、「何でもっとディフェンスで出ないんだ! 今から言ってこい!」ってすごく怒られました(笑)。当時はアナリストもいなかったので、試合後に相良監督とスコットと僕の3人で、夜中までビデオを何度も見て分析をしましたね。そこで何が悪いのかを明確にできて、その上で、あとはメンタルだろ、というところまで行き着いた。ただ、九電に完敗したことで、会社側では「今年は無理かもな」という声もありましたね。
腹をくくり、最高のムードで臨んだ運命の近鉄戦
――九州電力戦から1週空き、近鉄戦に向かう時のチームの様子はどうだったのでしょう。
佐藤 シーズンを通してチームの雰囲気はすごくいいと感じていたんですが、近鉄戦のゲームウィークはとりわけ良かったんです。児玉や城さん、塚原さんが本当によくサポートしてくれて、すごくいい練習ができたという感覚が僕の中にありました。それで近鉄戦の2日前の練習で、あまりにも雰囲気が良すぎて泣いちゃったんです。そしたらみんなから「何泣いてんだよ」と茶化されて(笑)。いいチームだな、こういうチームでずっとやりたいな、と思いましたね。
松永 それまではそこで茶化す人間もいなかったから。きっと「大丈夫かな、喬輔さん」って心配されてたよね(笑)。
――プレッシャーはありませんでしたか
佐藤 …ありました(笑)。僕はこの年、試合の前日はまったく寝られませんでした。元々緊張しいだし、リーグの状況としても、過去4年で最大のチャンスがきたと思っていたので。「今年上がれなければ」という重圧は、常に感じていました。ただ、他の選手たちはうまく対応できていたと思いますね
松永 開き直りじゃないですけど、「近鉄に勝てば上に上がれるんだ」ということで、みんながまとまったんだと思います。メンバー的にも、すごく真面目なキャプテンがいて、城太郎みたいにちょっとふざけた奴がいて(笑)、高卒でずっとやってきて特別な思いを持っている佐々木とか村上(崇)みたいな人間もいるし、バランスよくキャラクターがそろっていた。外国人のダグ(タウシリ/CTB)やブレア(ウーリッチ/NO8)、アレックス(中川ゴフアレキサンダアキラ/FL)も、完全にチームの一員になっていました。
三須 今更何かやっても、急激に強くなることはないんで。気の持ちようですよね。
――ラグビーの面で何か大きく変えたことはありましたか。
佐藤 戦術面は変えていません。ただ近鉄は2週連続の試合で、ウチは1週空いたので、先にバテるのは向こうだ、という話はしていました。その中で必ず劣勢を強いられる時間帯があるから、そこを我慢して、最後まであきらめずに戦おうと。1週空いたことで九電戦から一度リセットできたのは、アドバンテージがあったと思います。
三須 それも場合によるよね。勝って2週連続ならいいけど。ただ、プレッシャーは感じなかったですね。とにかくやることをやるだけという気持ちだったし、相良さんも肝が座っていた。
――花園ラグビー場での近鉄戦。アウェーもアウェーという状況でした。
佐藤 でもあの試合、重工の応援もすごかったんです。1000人近い方々が来てくださって、しかも歓声がよく響くように、屋根のあるメインスタンドのところに陣取ってくれた。そういう戦略まで考えてくださったという話を、後から聞きました。
(後編に続く)
Published: 2018.12.11
(取材・文:直江光信)
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