#014 大和田 祐司『今度こそ。』

今までで一番手応えを感じながら過ごしたシーズンだった。絶対にトップリーグに昇格する。その自信はあったし、そのために必要なステップを重ねてきた実感もあった。それだけに戦いを終えた今、大和田祐司は一年を振り返ってこう悔しさを口にする。

「“またか”という結果で、応援してくださる方々に本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいです。個人的にも、チームとしても、今までで一番自信があったので、そのぶんショックも大きい」

トップイーストを首位通過し、万全を期して挑んだトップチャレンジシリーズ。しかし勝って勢いをつけるはずだった九州電力との重要な初戦で、チームは手痛い黒星を喫する。続く日野自動車戦は29-7で快勝したものの、NTTドコモとの決戦に14-30で敗れ、最初の昇格チャンスを逃した。

背水の陣の覚悟で臨んだ豊田自動織機との入替戦では、重圧からか前半パニックになって失点を重ねたことが最後まで響いた。後半10分以降猛烈に追い上げたものの、21-33で敗戦。この瞬間、悲願のトップリーグ昇格は来季へ持ち越しとなった。

「九州電力は相手ながらすごくいいチームでした。NTTドコモは向こうの気持ちが乗っていた。豊田自動織機は2年前の入替戦で完敗した時の強いイメージがありましたが、分析する限りいけると思っていました。(勝利に)届かなかった原因は…やっぱりプレーの精度が一番かな、と。本当に、本当に小さいところなんですが、トップリーグのチームは上で揉まれているぶん、そこができる。その違いを感じました」

もっとも、これまでで一番トップリーグに接近したという感触をつかんだのもまた確かだった。課題だったフィジカル面でトップレベルのチームにも当たり負けしなくなったし、自分たちの型に持ち込めれば、どの相手からもトライを奪うことができた。点を取るイメージができなければ、試合に勝つイメージを描くのも難しい。この部分で成長を実感できた価値は、はかり知れない。

「体の大きい相手にもコンタクトで互角にやり合えたし、織機戦の後半に連続トライを奪った時は僕らのやりたいラグビーを出せた。自分たちのアタックができれば通用することは、証明できたと思います。いくら守っても、点を取れないと勝てないですから。ここは、佐藤(喬輔)監督体制になって2年間、チーム一丸となって取り組んできたことの成果だと感じます」

自身は今季の公式戦全13試合中、7試合に出場。「小さなケガやコンディション不良が多かった。シーズン当初に『全試合出る』という目標を掲げていて、スタッフ陣からもそういうことを求められているのがわかっていただけに、責任を感じる」と自己評価は厳しいが、新戦力とのバランスでWTB、FBを兼務する難しい状況にも安定したパフォーマンスを発揮して、随所にベテランらしい存在感を示した。

昨年31歳となり、今やバックスリーでは阿久田健策に次いで2番目の年長選手となった。シーズンを重ねるに連れ、チームにおける自分の役割が少しずつ変わってきたことも自覚している。「正直、この歳までラグビーをやるとは思っていなかった」と苦笑しながら、現在の心境を落ち着いた口調で話す。

「これまでの経験もありますし、プレーの質や精度といった部分で、練習中から年下の選手の模範になっていかなければならない。ここ数年は特に、若手に自分の経験を伝えることを意識するようになりました」

佐藤監督体制の2年目を終え、ダイナボアーズも多くの面で変化を遂げた。入社からの9年間で様々なシーズンを経験してきた男は、チームの確かな進歩をこう表現する。

「昨シーズンはまずベースとなるシステムの構築から手をつけて、今季はそのベースの上にプラスアルファを乗せていった。この成長は大きいと思います。選手とスタッフもよくコミュニケーションがとれていて、しっかりとした信頼関係が築けている」

9シーズンぶりのトップリーグ昇格はならなかったが、この1年の取り組みでつかんだ手応えは、来季を戦う上でかけがえのない財産となるはずだ。一方で高くそびえる壁を越えるためには、さらなる前進が必要だとも感じている。そのひとつとして大和田が挙げるのは、「チーム全体の底上げ」だ。

「今、試合に出ているのはベテラン選手が多くて、若手がなかなか出られない状況にある。僕自身そうだったのですが、選手は場数を踏むことで成長していく。若手が伸びればチームの底上げになるし、ベテラン選手のプレッシャーにもなる。それによってチーム内の競争が生まれ、全体の力が上がっていくのが理想の形。もちろん今までも取り組んできたのですが、この部分をもっともっと高めることが必要だと感じます」

社会人でラグビー選手を10年続けるのは簡単ではない。そして長くプレーするほど、チームに対する思い入れも強くなる。大学卒業後の進路を決める際、ラグビーを続ける道を開いてくれたのがダイナボアーズだった。それだけに、お世話になった人たちに結果で応えたいという気持ちは強い。

「トップリーグでプレーして、そこで活躍することで、今まで支えてくださった人たちに恩返しをできるんじゃないか、という思いはあります。ダイナボアーズのファンは本当にすごい。入替戦も、名古屋なのに『どっちのホーム?』と感じるくらいたくさん来てくださって…。やっていてすごくうれしかった。ダイナボアーズの緑がたくさんあって、ああ、僕らにはこんなにも多くの味方がいるんだ、と」

来シーズンはトップチャレンジリーグという新たな戦いの舞台が待っている。関東、関西、九州の上位8チームがたったひとつの自動昇格枠をかけて激突するのだから、トップイーストに比べ数段タフなリーグになるのは間違いないだろう。一方で、それがチームに新たな刺激をもたらすことも確かだ。

「率直に言って楽しみです。強い相手ばかりでこれまで以上に競る試合が多くなりますが、ウチにとってはいいことだと思う。すぐそこに上のステージがあるというのは、モチベーションにもつながります。そこで揉まれて、どんどん成長していきたい」

来季は入社10年目を迎える。節目となる年に昇格を果たし、仲間とファンで歓喜を分かち合うことができれば、これ以上のストーリーはない。「トップリーグに上がればみんながハッピーになる。今年こそ、必ず上がります」。静かな言葉に、長くダイナボアーズを支えてきた男の決意がにじんだ。

Published: 2017.03.30
(取材・文:直江光信)