#011 安藤 栄次『挑戦は続く。』

沈着冷静なプレーメーカーとして日本代表でも活躍した安藤栄次が、7年間在籍したNECからダイナボアーズへ移籍したのは、2012年シーズンのことだった。きっかけは、プレーヤーとして円熟期を迎え環境の変化を欲していた安藤のもとへ届いた、高岩映善・前監督からのオファー。「選手としての一番の幸せは、求められること。NECでもお世話になった方ですし、プレー以外の部分でも、若手を育ててほしいといった話をいただいて。やりがいがあるな、と」。挑戦心に火がついた。

2013年から2シーズンはキャプテンも務め、昨年、引退と同時にコーチングスタッフ入り。その年に就任した大学の3学年先輩である佐藤喬輔監督を、様々な面からサポートしてきた。すっかり「相模原の人」となった気鋭のコーチは、今のクラブの雰囲気をこう表現する。

「まさにTNT(チームのために)というスローガンそのままのチームだと思います。NECもそうだったんですが、みんなのチームを思う気持ちが非常に強い。ファミリー的な空気が、すごくありますね」

オン・ザ・グラウンドだけでなく、オフ・ザ・グラウンドでも一人ひとりが強く結びついている。それがチームの力になることを、NEC時代に何度も目のあたりにしてきた。ダイナボアーズの持つ同様の雰囲気も、間違いなく大きな武器になると感じている。

「スタッフと選手の関係性が非常にいいんです。お互い素直に意見をぶつけられるし、それにしっかりと応えられる。そのコミュニケーションのよさが、ダイナボアーズの一番の強みだと思います。スタッフと選手のコミュニケーションがとれなくなるのが、チームが悪くなる典型ですから。もちろん時には厳しいことも伝えますが、選手もちゃんとそれをきちんと受け止めて、意見を返してくれる」

2012年に移籍してきた当初は、コンタクトレベルやゲームスピードの部分でトップリーグとの違いを感じることも少なくなかった。選手はみな真摯にラグビーに取り組んでいたが、そこからさらにステップアップするためには、もう一段上のアプローチが必要だった。そうした点でも、今は確かな手応えを感じている。

「三菱の選手はみんな真面目で、言われたことに100パーセントで取り組む。でも言われたことをやるだけでは、成長もそこまでです。そこからどれだけプラスアルファできるかが大事なのですが、以前は何をプラスすればいいかがわかっていなかった。今のスタッフ陣は、いろんな引き出しを持つコーチが様々な情報を提供できるので、選手も何が自分の課題であり、それに対してどう改善すべきか、ということが明確に認識できる。そこの意識が変わって、自分たちで取り組めるようになってきました」

現役当時からコーチングに興味があり、指導者の道に進む思いを抱いていた。現在はBKコーチ兼アナリストとして、ジョージ・コニアHCとともにBKを見ながら、ゲームスタッツの集計や対戦相手の情報収集も行う。経験豊富なスタッフの中で「いろんなことを見て、聞いて、覚えて、シーズンの流れを学んだ」という1年目を過ごし、2年目の今季はより充実した日々を送った。

「去年まではどちらかといえばBKに強みがありましたが、今年は要所でFWの強化ができて、バランスがよくなったと思います。去年からの選手が我々コーチングスタッフが求めるものに対してがんばってきてくれたおかげで、しっかりとしたベースができた。そこに力のある選手が入ってきたことで、よりバランスのとれたチームになった」

2年目を迎え、佐藤監督就任後から取り組む新しい戦い方も浸透してきた。細かい浮き沈みはありながらも右肩上がりでチーム力を高めてこられたのは、新たな戦力が加わる中で試合を重ねながらコンビネーションを成熟させてこられた証拠だろう。シーズンが深まるにつれていい形でボールが動くシーンが増えていったことからも、それは明らかだった。

「シーズン終盤の試合でセットプレーに強みを持つチームに対しても互角以上の戦いができたというのは、FWのがんばりがあってこそだと思います。そこの安定感があったから、BKも戦いやすかった。いいチームになってきたな、と」

1月前半に行われたトップチャレンジは2位に終わり、1月28日の入替戦も12点差で惜敗。残念ながら悲願のトップリーグ昇格には届かず、ダイナボアーズの2016-2017シーズンは終わった。これで安藤コーチが加入した2012年シーズン以降、5季連続の入替戦での敗戦。毎年あと一歩のところまで肉薄しながら壁に阻まれる理由は、どこにあるのか。身のすくむようなプレッシャーのかかる極限の戦いを何度も経験してきた男は、その要因をこう語る。

「入替戦ということは、相手はどうしても自分たちより格上ということになる。実際の力の差はほとんどないけど、結局はどれだけ勝負のアヤを理解しているか、ということだと思います。不用意なペナルティをしないことだったり、時間の使い方だったり…。単調に80分間同じペースで自分たちのラグビーをやるのではなく、どこかでテンポアップしたり、流れが悪くなったらスローダウンして落ち着かせたり、そうした時間の使い方、ゲームの組み立て方は、経験して身につけていくしかない。ここの差が、トップリーグ勢との差だと感じます」

国内最高峰の舞台への復帰は、会社、チーム関係者、そしてダイナボアーズを愛するサポーターにとっての悲願でもある。どんなに苦しい時もチームに寄り添い、支えてくれた数多くのファンのためにも、来季こそ絶対にトップリーグ昇格を勝ち取る。その想いは強い。

「ファンのみなさんの存在は、本当にありがたい限りです。悔しい結果が続いてきましたが、この経験は必ず自分たちの財産になっている。経験してきたことをしっかり整理して、大事なものを見つけ、その部分をもっともっと高めていくことが、これからのポイントだと思います。ラグビーの世界で生きている以上、トップリーグでやりたいという気持ちは当然ある。そこでプレーすることがどれだけ大事かは、チームの誰もがわかっています」

シーズンの終わりは、新たなシーズンの始まりでもある。ダイナボアーズの挑戦は、これからも続く。

Published: 2017.02.16
(取材・文:直江光信)