#059 クーパーHC & 石井GM 特別対談
18年間に渡り国内最高峰リーグとして日本ラグビーをリードしてきたトップリーグが発展的解消となり、2022年1月から新たに『ジャパンラグビー リーグワン』がスタートする。歴史的な節目を迎える中で、三菱重工相模原ダイナボアーズは今後どのようなクラブを目指していくのか。そのビジョンと未来への思いを、現場のトップであるグレッグ・クーパーヘッドコーチと、フロントのトップである石井晃GMに、それぞれの立場で語ってもらった。
――7月にリーグワンの概要が発表され、ダイナボアーズはDiv2からのスタートが決定しました。まずはそれを受けての率直な心境から聞かせてください。
クーパー 目標はもちろんDiv1に入ることでした。私たちコーチングスタッフと選手たちはオンフィールドで努力し、石井さんたちフロントの方々にはフィールド外の部分でいろいろと努力してもらっていたので、Div1に入れなかったのは正直残念です。しかし今は、Div1に昇格するという新しいチャレンジができることに、ワクワクしています。
石井 我々はDiv1でやるための準備をしていましたし、Div1でやれる自信もあったので、当初は悔しかったですね。ただ冷静に考えると、まだまだやらなければならないことがあったのも事実です。いろんな課題が見つかったと前向きにとらえて、次のステップへ進むことに今はフォーカスしています。
――Div1入りできなかった要因を、チームとしてどのように総括したのでしょうか。
石井 Div1で戦っていく覚悟や本気度という点で、まだまだ足りなかったと思います。自分たちでは「これだけやってきたし大丈夫」という手応えがあったのですが、Div1でやるには本当に大きな覚悟が必要だということを、あらためて痛感しました。我々フロントを含めたチームのカルチャーを、Div1でしっかり戦っていけるものにしていかなければならない。ここは一朝一夕にできるものではないので、目指す方向性を明確にして、真摯に取り組んでいくしかないと思っています。
クーパー オンフィールドの分野もまったく同じで、いいチームになるために常に努力し続けなければなりません。オンフィールドとオフフィールドでお互いがレベルアップすることで、トップディビジョンにふさわしいチームになれる。もちろん自分たちのクラブカルチャーを築き上げることも大切です。ダイナボアーズには今もいい文化がありますが、それをよりよいものにしていくために、正しい努力をしなければならない。Div1に昇格するという目標に向かって、お互いに信頼してチーム一丸で取り組んでいきます。
――2021年のトップリーグでは、ここを勝てば、という大切な試合を勝ちきれませんでした。シーズンを振り返っての感想は。
クーパー 成長できたところもありましたが、成長しきれなかったところもありました。終了後、チーム全員でフィードバックセッションを行って、どういう部分をレベルアップしなければならないかを話し合いました。2021年の成績には満足していませんが、学んだこともたくさんあった。その学びを、次のシーズンに生かしていきたいと考えています。
2019年W杯で日本代表が築き上げたような文化を、相模原にも
――トップリーグからリーグワンに変わり、チームのあり方も変わっていくと思います。クラブとしての今後のビジョンを、どうイメージされているのでしょう。
石井 リーグワンに変わって一番大事になるのは、地域だと考えています。ここは私たちがこれまでも大切にしてきたことで、三菱重工相模原のラグビーは今季創部50周年を迎えますが、ずっと名前を変えずに、相模原市、神奈川県をベースにやってきました。この根をもっと広げ、幹を太くしていくことが大事で、それが結果的にチーム力や事業力にもはね返ってくる。これまで以上に地域に密着して、相模原といえばダイナボアーズだと誰もが実感できるような存在にしていきたい。それが、Div1にふさわしいチームになるということだと思っています。
クーパー もっとも大切なのは勝つことです。勝つことで応援してくれるファンも盛り上がりますし、いろんな好循環が生まれる。ただ、勝つためにはそれ相応の準備が必要です。今年、オリンピックが日本で開催されましたが、金メダルを獲得した選手はみな、それにふさわしいスタンダードを備えていました。そうしたことから、私たちは今シーズンのスローガンとして『ゴールドスタンダード』という言葉を掲げました。オンフィールドでもオフフィールドでもゴールドスタンダード、金メダルを獲るというメンタリティで取り組む。フィールド内はもちろん、地域との関わり方やファンサービスも、常にゴールドスタンダードにすることが大事だと考えています。 私はニュージーランドやフランス、イタリアなどさまざまな国でプレーし、多くのスポーツ文化を経験してきました。その中でも、2019年のラグビーワールドカップで日本代表が作り上げた文化は、もっともすばらしいものでした。あれと同じものを、相模原にも築き上げたい。みんなとともに、そういうチームにしていくつもりです。
――ワクワクするお話ですね。そうした期待感が、チームの求心力になっていく。
石井 人を呼び込む組織とはどういうものかというのをずっと考えているのですが、そうした思いやビジョンがなければ、人を集めることはできません。選手のリクルートも同様で、「ダイナボアーズっていいよね」と思ってもらうためには、自分たちの思いをしっかり発信できなければなない。そういうチームが、トップに上がっていくとも感じます。
佐藤 危ない試合はほとんどなかったような記憶があります。下馬評でも、実力的に僕らがイーストでは一番という感じでしたが、足元をすくわれることなく、1試合1試合きちんと勝っていった感じでした。
――ラグビーの面では、どのようにチームづくりを進めていくのでしょうか。
クーパー ダイナボアーズにはアタッキングチームのDNAがあります。それを残しつつ、上にいくためにはディフェンス面も向上しなければならない。その点で今季、新たにグレン・ディレーニーをディフェンスコーチとして招聘できたことは大きいと感じています。彼はカンタベリーやハイランダーズ、ウエールズのスカーレッツなどトップチームでの指導経験があり、彼の加入によってディフェンス力は飛躍的に向上しつつあります。ボールを持っている時も、ボールを持っていないディフェンスの時も、常にアタックするというメンタリティを作っているところです。
――リーグワンの他チームを見ると、世界的なビッグネームの入団が続々と発表されています。こうしたリクルーティングも、大切な要素ですね。
石井 チーム強化はもちろん、事業性の観点からも、当然そこは意識しています。2021シーズンも世界のトッププレーヤーがたくさん来日しましたが、その効果は絶大でした。チームの価値を上げるためには絶対に必要なことなので、力を入れていきます。
クーパー ぜひよろしくお願いします(笑)。ダイナボアーズはハイランダーズ(ニュージーランドのスーパーラグビークラブ)とパートナーシップ契約を結んでいて、リクルーティングだけでなくコーチングの面でもいいコネクションを築けています。コロナ禍でお互いに国を行き来できなかったのは非常に残念でしたが、以前のように制限なく往来ができるようになったら、こちらから選手を送ったり、向こうで出場機会の少ない選手を日本に連れてきたりといったことを考えています。ニュージーランドには、試合には出ていないけれど将来性のある若い選手がたくさんいます。ビッグネームの獲得はもちろんインパクトがありますが、そうした可能性を秘めた選手も含めて、チームとしてどういうリクルーティングをするかが大事です。
石井 そこは我々も理解していますし、実際にそうした選手を獲得できていると思います。
クーパー たとえばマット・ヴァエガは、スーパーラグビーではなかなかチャンスがありませんでしたが、ダイナボアーズに来て日本で成長し、トップクラスのプレーヤーになりました。マイキー(マイケル・リトル)もそうです。彼は今や、1対1では現在世界トップクラスの選手といえるでしょう。彼らのような原石を見つけて日本に呼んでくることも、とても大事です。
『ゴールドスタンダード』のエキサイティングなラグビーで、多くのファンを魅了する
――リーグワンでは各チームに事業性が求められることになります。その点で、どのようなことが大事になるのでしょうか。
石井 これはラグビーとビジネスの両輪があって、ラグビーを強化する一方、チームとしての事業力も高めていかなければならない。まずはお客さんを呼び込まなければ始まらないので、チケット販売はその一丁目一番地だと考えています。そのための認知活動は惜しまないですし、この1、2年はとにかくそこに注力していきたい。目の前の採算は合わないとしても、2年後3年後に花開くような種を蒔いていって、それがチケットセールスにつながり、やがてスポンサー獲得にも発展していく――というイメージです。自分たちではそれなりに認知されていると思っていても、相模原での認知度はまだ4割ほどしかありません。もっとできることがあるし、逆にいえばまだまだ大きなポテンシャルがある。ここをしっかり掘り起こしていきたい。
クーパー 一番大事なのはコミュニティ、地域の中で多くの人にダイナボアーズを認知してもらうことです。オールブラックスには『いい人間がいいオールブラックスになる』という言葉がありますが、そうした部分がとても大切。尊敬される人でなければ、多くの人に見に来てもらうことはできません。オフフィールドでも認めてもらえる人間にならなければならないし、地域の人々とふれあう際の姿勢によって、自然とファンが増えるようにしていきたい。ラグビーの面では、どうやって勝つか、ということも重要です。ワクワクするようなエキサイティングなラグビーを披露して、なおかつ結果も出せば、見たいと思う人がどんどん増えていくでしょう。
――2019年の日本代表はラグビーのスタイルも魅力的だったし、選手たちの人間性の部分でも多くの人をひきつけた。だからこそ、あれほどのブームが巻き起こりました。
クーパー 石井さんともそういうスタイルを作りましょうと話をしています。いま取り組んでいるラグビーをみなさんに披露するのが楽しみです。
石井 ワールドカップでなぜあれほど日本中が盛り上がったかと考えると、ラグビーの持つ“結束力”が、多くの人を惹きつけたからだと思うんです。その結束力を体現できるチームが、多くの人の共感を得られる。選手やスタッフには常々そういう話をしていますし、結束することで、一人ひとりの力を足し算ではなくかけ算にできる。そこがラグビーのいいところであり、大きな価値だと思っています。
――24チームあるリーグワンの中で、いかに独自性を出していくかも大切なポイントになります。ダイナボアーズの強みを、どのように認識していますか。
石井 1986年に三菱重工相模原の所技になって以降、ウチは一度もチームを縮小したことがありません。今回の新リーグ参入に向けて、クラブ体制はさらに強化していただきました。また一貫して相模原市を拠点に活動を続けてきて、神奈川県とも連携協定を結んでいます。会社のサポートと地域のサポート、このふたつは我々の大きな強みですし、今後もぶらさず大事にしていきます。三菱には浦和レッズや強豪の野球部もあるので、そうしたチームとの連携も、ぜひ進めていきたいと考えています。
クーパー 私がダイナボアーズに来て最初にミーティングをした時、石井さんからそうしたクラブの歴史を聞きました。また実際に相模原に住んでみて、多くの人がダイナボアーズとつながっていると感じました。2018年にトップリーグ昇格を果たしたことで、そのコネクションはさらに強まりました。またDiv2から上を目指すことになりますが、このすばらしいコミュニティには大きなポテンシャルがあります。もっともっと多くの人を巻き込んで、我々の強みである人のつながりをより強固にしていきたい。
日本の人々は、あるチームを好きになるとずっと熱い応援を続けてくれます。2019年のワールドカップをきっかけに、それまでラグビーを知らなかった多くの人が日本代表のファンになり、今も応援している。なぜそれができたかといえば、日本代表がエキサイティングなラグビーをやって、なおかつ結果も残したからです。私がコーチとしてやらなければならないのが、まさにそこです。いいラグビーをしながら勝利をつかんで、多くのファンにずっと応援してもらえるチームを作っていきます。
――本当に多くの熱心なファンが、ダイナボアーズを支えてくださっています。最後に、そうしたみなさまへメッセージを。
クーパー いつも変わらぬ情熱でサポートしていただき感謝しています。私の仕事は、ワクワクするラグビーを見せて勝利し、みなさんにエンジョイしてもらうことです。それをできるよう全員で努力しますし、そのためにすべての力を出し尽くします。
石井 今回Div2からのスタートとなりますが、『ゴールドスタンダード』というスローガンにふさわしいラグビーをみなさんにお見せして、ダイナボアーズの結束を感じてもらい、感動してもらえるようなゲームをしたいと考えています。我々が見据えているのは、Div1で常に上位争いをできるチームになることです。そこに向かって成長していく姿を見ていただきたいですし、我々も自分たちのすべきことを追求していきます。
Published: 2021.11.24
(取材・文:直江光信)
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