#010 徳田 亮真『未踏の地を征く。』

地道に、コツコツと鍛錬を積み重ねてここまでたどり着いた。大阪の柏原高校から入社して9年目、華やかなスポットライトを浴びることこそ少ないものの、いつも厳しい肉弾戦へ黙々と体をねじ込み、仲間のために献身的に前へ出続ける。今やチームにとって欠かせぬ存在となったこの偉丈夫を、佐藤喬輔監督は「ダイナボアーズを象徴する選手」と評する。

キャリアを振り返れば、まさに“たたき上げ”の表現そのものだ。中学時代、最初は剣道部に入るも、部の雰囲気が合わずほどなくして退部。何をしようかと思案していた時、校内で目にしたラグビー部の先輩の鍛え上げられた身体に憧れて、楕円球を追いはじめた。同期の部員は3人。決して強いチームではなかったが、体格のよさに注目した指導者からの誘いを受け、柏原高に進学する。

高校時代は激戦区・大阪で上位を争うも、東海大仰星や大阪工大高(現常翔学園)といった強豪校の分厚い壁に阻まれ、全国の舞台には立てなかった。卒業後の進路も当初は一般企業への就職を考えていたが、ラグビーでの可能性を見込んだ高校の恩師が知人の関係者やOBに声をかけてまわってくれたおかげで、三菱重工相模原との縁を得る。これが、人生の転機となった。

「社会人ラグビーのイメージもなかったし、初めはラグビーを続けることをまったく考えてなかったんです。でも何もしない社会人生活より、ラグビーをやっていたほうが絶対にいいだろう、と。ホント、続けてよかったですね。ラグビーをやっていなかったら、今頃どんな生活をしていたかわかりませんから」

ただし、入社後しばらくは苦労続きだった。当時の体重は85キロ。コンタクト練習ではヒットした瞬間に弾き飛ばされ、ひっくり返ったこともあった。「肩の骨が折れるかと思いました。これはアカンわ、と(笑)」。でも不思議とその感覚が楽しかった。「これほど歯が立たないのか、という感じで。むしろ、この環境でやっていけばどれくらい強くなれるんだろう、と思ったんです」。トップリーグから降格した翌年の入社で周囲に実力者が揃っていたこともあり、公式戦出場までは数シーズンかかったが、練習試合では1年目から頻繁に使ってもらえたことが、気持ちの上で大きかった。

「ホントおこがましい話なんですけど、最初からずっと『俺はやれる』と思ってたんです。『なんで出してくれないのかな、もっと経験させてくれよ』と。ちょうどオールブラックスのトロイ・フラベル(注:NZ国内でも屈指の怪力FW。暴れん坊として有名だった)が同じ年に加入したんですが、『パワーは無理でもケンカやったら絶対勝てる』と思ってましたから(笑)。歳をとって振り返ればただの大阪のクソガキなんですけど、そんな意地みたいなものはありましたね」

初めてスターターとして公式戦に出場したのは、2014年シーズンのトップイースト第3節、日野自動車戦。翌2015年からはLOのレギュラーの座をがっちりとつかんだ。今季はここまでの公式戦で欠場が1試合だけ。消耗の激しいポジションながらその半数以上でフル出場していることからも、首脳陣の信頼の厚さがうかがえる。

「パワー、フィジカルの面で、ようやく社会人のラグビーでも対抗できるようになってきました。自分としてはまだ物足りないところはありますが、ある程度自分の仕事に信頼をおいてもらっているのかな、とは感じます」

社会人ラグビーでは、周囲のプレーヤーは強豪大学で活躍した有名選手が大半を占める。特に2003年にトップリーグが発足して以降、徳田のような高卒生え抜きの選手は少なくなる一方だ。当然ながら、自身のキャリアを意識する部分はあるだろう。

「しないといえば嘘になりますね。同世代には絶対に負けたくないという気持ちはあります。もちろん大卒の選手もキツい練習をしてきたと思うんですけど、高卒で入ってしんどい経験をしてきたという自負があるので」

徳田が「ダイナボアーズを象徴する選手」といわれる所以も、ここにある。トップレベルのラグビーチームで、高卒の生え抜き選手がこれほど多く在籍、活躍するクラブは、現在では非常に珍しい。

「試合のメンバー表を見ても、出身校が『○○高校』というのが多いですよね。でも、そういう人のほうがハングリーさはあると思う。エリートコースを歩んできたわけではないぶん、そういう人たちには負けたくない」

悲願のトップリーグ昇格へ向け、シーズンはいよいよクライマックスを迎えようとしている。純朴な青年時代から別次元の世界へ飛び込み、短くはない時間の中で一つひとつ階段を上がってきた徳田にとって、国内最高峰のトップリーグでプレーすることは、どんな意味があるのだろうか。

「ずっと見ていて、去年から今年にかけてまたレベルがメチャクチャ上がったと感じます。それだけ激しいリーグだからこそ、絶対にそこでやりたい。このチームで戦って、どれだけ通用するのか。トップリーグで試合をすれば、見えてくる課題もまた違うものになると思う。それが刺激になって、チームも自分もさらに成長できるんじゃないか、と」

過去数シーズン、あと一歩で昇格を逃してきた経験を通して感じるのは、わずかな差が勝敗を、ひいてはチームの運命を決める、ということだ。

「たとえば低くプレーするだったり、細かなコミュニケーションだったり、いつもコーチから言われている小さなことが、上のチームほどしっかりしている。逆にそこさえできれば、壁を越えられると思うんです。その点で、今シーズンは試合中のコミュニケーションのレベルがすごく高くなった。何を、どうする、ということをお互い明確に伝えられるようになって、一体感のあるいいチームになってきたな、と感じます」

飛躍的に厳しさが増すこれからの戦いにおける自身の役割は、「とにかくボールを出すこと」。今季のチームには、いい形で球を渡せば一発で仕留めてくれる破壊力のある選手が揃う。そうした仲間の力を最大限に引き出すため、ひたすら体を張り続ける覚悟はできている。

「相手の一番強いところに運んで、そこでいいボールが出れば、チームにリズムが出てくる。それが僕の仕事だと思っています。ずっと応援していただいているファンの皆様には、これまで毎年『またかよ』という思いをさせてきたので、今年こそは昇格という形で恩返しをして、みんなで一緒においしいお酒を飲みたいですね」

骨惜しみとは無縁のハードワークを見れば、多くのトップリーグ関係者がきっと「こんな選手がいたのか」と目を丸くするだろう。

Published: 2017.01.26
(取材・文:直江光信)