#039 D-DNA特別編 4人の当事者たちが振り返る「2007.1.27近鉄戦」『あの日、歴史が変わった。(後編)』
(前編からの続き)
【出席者プロフィール】
松永 武仁
2006-2007シーズン主務。現チームディレクター。東洋大学出身
佐藤 喬輔
2006-2007シーズンのキャプテン。当時は入社5年目、キャプテン2年目の年。ポジションはNO8。2015〜2017年度監督。現採用・総務担当。早稲田大学出身
三須 城太郎
前所属の三洋電機から2006-2007シーズンに三菱重工相模原に加入。トップチャレンジ1の近鉄戦で後半42分に逆転トライを挙げた。ポジションはWTB。東海大学出身
藤田 幸仁
2006-2007シーズンは入社4年目の年。近鉄戦の後半28分から途中出場。当時の三菱重工相模原でそのゲームに出場した唯一の現役選手。ポジションはPR。中央大学出身
16点ビハインドで迎えた残り12分、狙い通りに相手の足が止まった
――勝ったほうが昇格という状況で迎えた、2007年1月27日の近鉄戦。展開を振り返ってください。
松永 最初に相手に連続トライをされて、序盤は苦しい展開でしたね。
佐藤 その後も、三須先輩がシンビンになっていますからね。これ、実はおもしろい裏話があって。
三須 前半35分頃、CTBの佐々木健次がハイパントのボールを追いかけて、キャッチする相手選手に空中でタックルしてペナルティを取られたんです。それで「この試合がどれだけ大事かわかってんのか!」と怒ったんですが、そのわずか3分後に僕が同じことをやってシンビンになってしまった。「健次、ごめん」と言ってピッチを出ました(笑)。でもこの10分間休んだから、最後にトライが取れたんだよ(笑)。
松永 その直後に近鉄にトライされたんだけど、城太郎がいない間の前半42分と後半6分に、塚ちゃん(PR塚原稔)とブレア(NO8ブレア・ウーリッチ)が2トライしたんです。
三須 普通なら点差を広げられるところで、逆に詰められたのは大きかったよね。
佐藤 14人になって、かえってまとまった部分はありました。とにかく「アタックチャンスを大事にしよう」と言っていました。
――実際に近鉄と体を当てた感触はいかがでしたか。
三須 九電に比べれば、それほど圧力は感じなかったかな。
佐藤 思ってたよりスクラムが崩壊しなかった。この時は成(昂徳/PR)が相手にいたんだよね。
藤田 僕、トイメンで組みました。
――後半28分に近鉄にトライとゴールを決められ、15-31になりました。残り10分あまりで16点リードされた時の心境は。
佐藤 前日のミーティングで「折れない心を持って試合に臨もう」と話していたし、トライを取られた後のハドルでも、「絶対にチャンスは来るから、必ずそれをものにしよう」と言っていました。それはみんな頭に入っていたと思います。
三須 逆に近鉄は、「もうこれで大丈夫」みたいな気持ちになったんじゃないですかね。
佐藤 直後の後半30分に僕がトライをしたんですけど、かなり長くフェーズを重ねて、グラウンドの幅も使えたいいトライでした。あの1本で、「いける」という気持ちになれたと思います。近鉄の足が止まってきたというのも感じていました。
藤田 その後、重光選手(泰昌/近鉄SO)がPGを外したじゃないですか(後半38分)。距離はあったけど、ほぼ正面のPGで。あの時、まだチャンスはあるな、と思いました。
――そのPGの外れたボールをキャッチしたダグ(タウシリ/CTB)がカウンターで切り返して、敵陣まで攻め込んだことが、逆転トライのきっかけになりました。
三須 あの瞬間は、「何で行ったんだ!?」と思ったよね(笑)。自陣ゴール前だったから。
佐藤 「アイツ、行きやがった」という感じでしたね。
三須 ただ、どこかで必ず近鉄の勢いが止まると思っていたし、当時のウチのスタイルは、オフェンス7割ディフェンス3割くらいのオフェンス中心のラグビーだったから、やっていて自信はありました。諦める点差じゃない、近鉄の足が止まった時に逆転できるとずっと思っていた。特に僕は、(シンビンで)10分休憩できたから(笑)。
――そして27-31で迎えた後半42分、三須さんが逆転トライを挙げます。
三須 最後にトライを奪ったのがたまたま僕だっただけで、そこまでの過程で全員が一丸となって攻めていた。あの時思っていたのは、勝たなきゃいけないとか、トライを奪らなきゃいけないとかじゃなくて、自分が今何をしなきゃいけないか、ということだけでした。結局、試合ではそれまでやってきたことしか出せないわけじゃないですか。意外に頭の中は冷静でしたね。
藤田 僕は16点差の時に入替で入ったので、何か痕跡を残してやろうという気持ちでした。覚えているのは、近鉄のフロントローのディフェンスがあまくなっていたので、狙えるという話をしていて、僕がボールを持った時に、ちょうど相手の1、2、3番が目の前にいたんです。自分の中ではその3人を引きつけてパスをしたと思っていて、そこから最後のトライが生まれたんじゃないかなと(笑)。でも実は、重光選手がPGを外した後、ゴール前にいってトライを奪ったところまで、記憶が飛んでいるんです。覚えているのは、最後に密集でペナルティをもらって、すぐタップして、城さんがトライしてくれたシーンだけ。
佐藤 僕はこの時、ラックの中にいて、トライを奪った瞬間は見ていないんです。でも大歓声で何が起こったかがわかった。ただ、この後まだプレーが残っていたので、締め直したと思います。
三須 トライの後の時間のほうが、逆に緊張したかもしれない。
――フルタイムの瞬間は。
佐藤 たぶんへたり込んでいたと思います。ああ、終わったんだ、と。喜ぶというより、解放された感じでした。新聞に掲載された写真も、まるで負けたような感じでしたから。
藤田 僕は「無事終わったな」という感覚でした。勝ってうれしいというよりは、負けなくてよかったという気持ちのほうが強かったですね。周りが喜んでいるのを見て、だんだん実感が湧いてきた。すごく覚えているのは、勝った瞬間にダグとアレックス(中川ゴフアレキサンダアキラ/FL)が、抱き合ってメチャクチャ喜んでいたんです。外国人選手って、金稼ぎに来た助っ人みたいなイメージがあるじゃないですか。でもあの姿を見て、「ああ、こいつら本気でやってくれていたんだな」と思って、ぐっときました。
松永 あの試合は花園に1000人近い方々が応援に来てくださったんです。当時はまだ応援団がなかったので、武山さん(信行/元GM)たちOBが、関係のある業者さんに声をかけたりしてくださって。それで最後に城太郎がトライを奪った時、興奮したスコット・ピアース(HC)がグラウンドに入って観客席に向かってガッツポーズしちゃって、それを止めるのに必死でした(笑)。本当に、OBやファンと一体となって勝ったな、というのを感じましたね。
これまでの歩みを信じて、自分の責任を果たすことが大事
――当時はまだダイナボアーズの名前もない時代でした。トップリーグに上がって、様々なことが一変したのではないですか。
松永 大変なこともありましたけど、それもうれしかったですね。本当にすべてがガラッと変わって、チームウェアを着ていたら、選手でもない僕がファンの方にサインを求められましたから(笑)。それまではグラウンドサイドにお客さんがいる中で試合をしていたのが、全試合スタジアムになって、本当にトップの舞台に来たな、という感覚がありました。ウォーミングアップの時から会場に音楽が流れていて、雰囲気が違いましたね。
佐藤 多くのお客さんの前で試合ができるのは、ラグビー選手として最高の喜びだと思うので、それを経験できてよかったです。残念ながらトップリーグで結果は出なかったですけど、高いレベルの試合をたくさん経験できた。ラグビーがすごく楽しかったです。
三須 あの場に上がらないと、わからないものがある。トップリーグからの移籍組は別にして、今の選手たちはそれを知らないので、まずは一回経験させてあげたいですね。僕らみたいに全敗するかもしれないけど、まずあの場に立って、雰囲気を楽しんでもらいたい。やるからにはトップの舞台でやりたいという気持ちがあると思うし、それを経験すれば、もっと上でやりたいという気持ちが強くなると思う。
藤田 スポーツ選手として対応してもらえるというか、下のリーグとは違う特別感がありましたね。相模原のラグビースクールの子どもにもサインを求められたり、「スポーツ選手をやってるんだな」と実感した一年でした。
――あらためて振り返って、あの年トップリーグ昇格という大仕事を成し遂げられた理由は、何だったと思いますか。
佐藤 やはり、まとまりがあったことじゃないでしょうか。
三須 雰囲気がよかったし、移籍組が多くなったことで、それまでがどうだったとかの先入観がなかった。「やるしかない」という気持ちだったのも、勝てた要因のひとつかもしれません。
藤田 開き直ってやりたいことをやったというか。好き勝手やるという意味じゃなく、チームとしてやるべきことを、やりきったんじゃないかと思います。特に近鉄戦は、誰ひとり最後まで諦めなかったし、全員が自分の仕事をまっとうできた。
松永 チームがひとつになったな、という感覚はありました。試合に出ていないメンバーも、「自分は出ないからいいや」じゃなかった。
佐藤 近鉄戦で試合記録をつけていた半澤(拓朗/FL)は、手が震えちゃって字が書けなかったと言っていました。ビデオを撮っていた昌也(井上/HO)も、途中から泣いていたみたいで。最後のトライを奪った瞬間、画面がバーンと上に飛んじゃって(笑)。
松永 試合に出られない選手にすれば、納得いかないところもあるじゃないですか。でもこの試合は、本当にチームの代表としてみんなが送り出した、というのを感じました。
――今季のダイナボアーズは、まさにこれからそうした重要な局面を迎えます。現在のチームに必要なものは、何だと感じますか。
佐藤 ここから劇的に何かを変えるのは難しい。やっぱり最後まで諦めないことじゃないですかね。「ダメなのかな」と思うのではなく、入替戦は確実にあるわけだから、そこに向けてしっかり準備をすること。今年は選手の雰囲気がすごくいいと聞いているので、そのまとまりがあれば、やれると思います。
三須 今からどれだけ練習をやっても急激に強くなるわけじゃないので。本当に、気の持ち方ひとつじゃないかなと思います。あとは試合の時、いかに冷静にいられるか。去年の入替戦を見ていて、勝ち急いでいる感じがしたんです。勝ちたいという気持ちを持つのは当たり前だけど、そこで自分が何をやらなければならないのかを、一人ひとり冷静に考えられるようになってほしい。それができれば、結果はついてくると思います。
松永 チームを信じて、仲間を信じて戦えば、あの時の近鉄戦のように逆転で勝てることもある。今、あまりいい内容のゲームができていませんが、最後までチームと仲間を信じてやれば、必ず勝ちが見えてくるんじゃないかなと。12年越しで、来年は昇格を決めた年と同じ亥年。チーム名もイノシシですし、僕も亥年なので(笑)。必ずいけると思います。
藤田 チーム状態は決して悪くはありません。ただ、練習したことが出せない時に、うまくいかなくなっている。試合の中では当然うまくいかないことがあるんですけど、そうなった時に、いかに全員が自分の役割をしっかり果たせるかが大事。これからは、今あるものを研ぎ澄ませていく段階。最後に歯車がガチッと噛み合うようにしていきたいですね。
――歯車が噛み合えば、スカッとするような試合をできる予感はあります。それができるだけの土台も、ちゃんと築き上げてきた。
松永 今年のメンバーのほとんどは、去年の試合に出ている選手です。自分たちのラグビーをよく理解しているし、試合に出ない人間や我々スタッフも含めて、一人ひとりがきちんと責任を果たせば、必ずトップリーグに上がれると思っています。
佐藤 絶対に、こんなもんではないはずなんです。今のダイナボアーズが、本当のダイナボアーズの姿ではない。それは、中にいる人間の誰もがわかっている。自信を持って、最後まで諦めずに戦ってほしい。きっとやれるはずです。
Published: 2018.12.13
(取材・文:直江光信)
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