#008 ニコラス ライアン『僕がここにいる理由。』
日本でプレーする外国出身選手の中でも指折りの実績と知名度を誇る名手である。サントリー、そして日本代表で長く活躍し、2011年のラグビーW杯にも出場。代表キャップは実に38を数える。サントリーでは2013年度にトップリーグ史上初のリーグ戦通算1000得点と、100試合出場も達成した。190センチオーバーの長躯を槍と化して突き抜けるパワフルなランと正確なプレースキックは、自チーム以外のラグビーファンにもおなじみだ。
昨シーズン、10年間在籍したサントリーを離れてダイナボアーズに加わった。いくつもの栄誉を手にし、新しい変化を求めていたニコラスにとって、指導体制を一新しトップリーグ昇格を目指すダイナボアーズでのチャレンジは非常に魅力的に映った。
「ちょうど新体制になる節目で、ジョージ(コニア ヘッドコーチ)たちから彼らの描いているビジョンや、自分に求めていることを聞いた時、すごく興味を惹かれました。ここに加わりたい、と思った」
加入1年目の昨季は、トップイーストの9試合中8試合に出場。トップチャレンジ、トップリーグ入替戦でも活躍を見せたが、チームはあと一歩でトップリーグ昇格を逃した。ふたたび昇格をかけて挑む1月3日からのトップチャレンジ1を間近に控えた今、ニコラスはチームの状況をこう語る。
「初めてここへ来た時と比べると、まったく違うチームになったと感じます。スキルレベル、選手の戦術理解度、コミュニケーション、すべてが向上し、かつ安定してそれを発揮できるようになってきた。今はチームとして勢いづいていますし、雰囲気も非常にいい。順調にきていると思います」
チームは今季も全勝でトップイーストの1位通過を決めた。ライアンも9戦中7試合に出場し、随所に存在感を発揮。自身は夏に負ったヒザのケガの影響で「納得できるパフォーマンスができるまでは時間がかかった」と振り返るが、シーズンの深まりとともにコンディションも向上し、本来の躍動感あるプレーが戻ってきた。
ここまでのチームの戦いぶりの印象はこうだ。
「9試合を戦ってチームは大きく成長しました。到達しなければならないレベルに進んできているという実感があります。特に最後の3試合は、戦うごとにチームとして成長できた。ただし、ここで終わりではありませんし、トップチャレンジはまた別のレベルの戦いになります。我々の力が実際どれくらいのレベルにあるかは、トップリーグチームと対戦しなければわからない。トップイーストの優勝もあくまで次のステージに進むことができるというだけで、我々はまだ何も達成してはいません。この勢いを止めることなく、さらに成長することが大事だと思っています」
とりわけチームの成長を感じさせたのは、11月19日のトップイースト最終節、地元相模原ギオンスタジアムで行われた日野自動車戦だ。ともに全勝で勝ったほうが優勝という重要な一戦で、ダイナボアーズは今季ベストのパフォーマンスを披露。最高の形でリーグを締めくくるとともに、トップチャレンジヘ向け大きな手応えをつかんだ。
「手ごわい相手になると、チーム全体がすごく集中して、精度の高いプレーができる。しかしその反面、リーグの中では相手のレベルに合わせて戦うようなところもありました。日野戦でフォーカスしていたのは、プレーの精度と我慢すべきところで我慢すること、プレッシャーをかけること。それを確実に遂行できたからこそ、あのパフォーマンスを発揮できたのだと思う」
もっともニコラス本人が語るように、この先の戦いはこれまでとは段違いに厳しいものになる。極限のプレッシャーの中、タフな相手との激しいせめぎ合いを制するためのポイントは、どこにあるのか。
「トップチャレンジで戦う相手に30点差以上つけて勝つのは難しい。まずはタイトな展開でも自分たちに自信を持ち、持てる力を発揮していかなければなりません。日本代表でオールブラックスなどの強豪国と対戦すると、戦う前から気持ちの部分で負けているようなところがあった。そうではなく、今までやって来たことを信じてポジティブに戦うことが大事。どんなに強い相手も、我々と同じ人間です。(日本語で)シンジルコト、自分に対する信頼、チームメイトに対する信頼が、とても大きな意味を持つ」
そして、だからこそ今後の戦いで重要になるのが、この男の存在だ。本物のトップレベルのゲームを数多くプレーしてきた経験は、ビッグゲームになればなるほど、大きな意味を持つ。
「私自身、そのためにここにいると思っています。グラウンド内外で起こるすべての出来事に対して、プロとして自分の経験をチームに伝えることが私の仕事であり、ダイナボアーズで求められていることだと思う」
ここからはひとつの試合、ひとつのプレーが、トップリーグへとつながる重要なステップとなる。ここでどんな結果を残せるかによって、今シーズン積み上げてきたものの評価も決まる。そんな大一番のシリーズにかける意気込みを、ニコラスはこう口にする。
「もっとも大切なのは、必ずトップリーグに上がるという強いモチベーションを持つことです。どんなにいい試合をしても、トップリーグに上がれなければ今シーズンの意味はない、というくらいの気持ちで臨まなければならない。トップチャレンジの3試合はいずれもタフなゲームになるので、高いレベルでプレーし続けることが必要。そのためには、何より準備が大事になる。その点で去年は、予定していた練習試合がなくなったり、本当のいい準備はできなかった。それによってせっかくあった勢いがなくなってしまいました。今年はこの勢いがさらに強まるようにしていかなければならないし、今まで以上に厳しいトレーニングを積んで、自分たちのパフォーマンスを磨き上げていきたい」
過去4年はすべて入替戦で敗れ涙を飲んできた。今度こそ悲願を達成する。トップイーストをいい形で終え、会社全体で昇格への機運が高まってきた今だからこそ、この盛り上がりを追い風にして一気に昇格を決めたい。
「釜石戦はアウェーにもかかわらず多くの方が応援にきてくださいましたし、日野戦はホームということもあってさらにすごかった。社内の熱気もすばらしいと感じます。ファンのサポートなくしてこの結果はなかったし、ここから先の戦いでも、我々の求める結果を出すためにはみなさんの力が必ず必要になる。トップリーグに上がるためには、選手だけでなくサポーターも含めチーム一丸となって戦うことが大事です。一緒に昇格を勝ち取りましょう」
いよいよ総決算の戦いへ。今年で37歳になった歴戦のベテランは、静かなる決意を胸にその時を迎えようとしている。
Published: 2016.12.30
(取材・文:直江光信)
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