#064 坂本侑翼『タックルに生きる。』

ラグビーの華といえばなんといってもタックルだ。風景を消し去る一撃がチームの危機を断ち切り、スタジアムに熱狂を呼ぶ。

2022-23シーズンのNTTジャパンラグビーリーグワン。ダイナボアーズ加入2年目の坂本侑翼は、そのタックルで一躍全国のラグビーファンに名を知られる存在となった。

衝撃的だったのは1月14日の第4節東芝ブレイブルーパス東京戦だ。リーグ屈指のフィジカリティを誇る強豪を相手に、火を噴くような猛タックルを連発して何度もスタンドを沸かせた。クラブ史上初の対東芝戦勝利の原動力となり、プレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選出された。

176センチ、95キロの小さな身体で特大のインパクトを残す坂本の奮闘は、昇格1季目でディビジョン1に旋風を巻き起こしたダイナボアーズの象徴となった。レギュラーシーズンの総タックル数「182」は、ピーターステフ・デュトイやハリー・ホッキングスらを抑えて堂々のリーグ1位。あのリーチマイケルがたびたび名前を挙げて称賛していたことからも、いかに印象が鮮烈だったかはうかがえる。

「自分がメンバーに選ばれるということは、ディフェンスとハードワークで試合を作る、ということだと思っていました。役割がはっきりしていたし、戦術的にも自分の強みを出しやすかったと感じます」

まさに飛躍を遂げた1年。もっともシーズン前は不安のほうが大きかった。加入1年目のNTTリーグワン2022は出場ゼロ。バックローには経験豊富な実力者がそろっており、「このまま終わっちゃうんじゃないかと思っていました」と正直に心情を吐露する。

そんな状況を変える突破口になったのは、やはり持ち味のタックルだった。当時アシスタントコーチだったグレン・ディレーニー現ヘッドコーチにたびたびマンツーマンで指導を請いに行き、基礎からスキルを見直した。感覚でやっていた動作を一つひとつ理論的に学んだことで、「自分の中ですごく腑に落ちるものがあった」という。

「元々タックルが得意ではあったんですけど、大学までは飛び込むことが多くて、スキル的にはまだまだでした。そこを言葉できちんと説明できるまで教えてもらって、頭の中が整理された。今は無意識に正しいタックルをできるようになった感覚があります」

具体的にはどういうことなのか。

「タックルは当たる肩と同じ足を出すことが大事とよくいわれますが、『まず足をしっかりついた上で肩を当てにいく』という部分が、すごく僕に合っていました。以前は加速してそのまま飛び込んでいたところを、先に足をついて、踏み込んだ先にタックルがあるという意識に変わった。そこが一番改善された部分です。それによって、タックルの威力が大幅に増しました」

生粋のタックラーだ。5歳の時に柏ラグビースクールで初めて楕円球に触れた時から、体をぶつけることが好きだった。「怖い、痛いと思ったことは一度もありません。そこだけは、才能だと思います」と笑う。

流経大柏高校に入学した当初は線が細く、周囲から「ついていけるのか」と心配されるほどだった。しかし志願してWTBからFLに転向したことで潜在力が開花。2、3年とレギュラーで花園の芝を踏み、進学した流通経済大学でもルーキーイヤーから公式戦の出場機会をつかんだ。4年時はキャプテンを務め、チームを大学選手権準々決勝進出にも導いている。同大会の3回戦、筑波大学に19-19で引き分け、みずから抽選で次戦への出場権を手にした一戦は、ラグビー人生で3本の指に入る思い出のゲームだ。

しかし、卒業後の進路はなかなか決まらなかった。障壁となったのはサイズだ。特にFW第3列は強力な外国人選手がひしめく激戦区だけに、体の小さい和製FLが入る枠は限られる。アピール用のビデオを各チームに送り、高校時代の恩師である相亮太監督もさまざまな伝手をあたってくれたが、いい返事はもらえなかった。

「いつも、『いい選手だけど、サイズが…』で断られて。正直、無理なのかなとあきらめかけていました」

だからこそ、土壇場で声をかけてもらったダイナボアーズには恩義を感じている。それまでほとんど縁のないチームだったが、オファーを受けてすぐに入団を決めた。そしてそうした経験が、反骨心として自分のエネルギーになっているとも話す。

「拾ってもらったので、ダイナボアーズに貢献して活躍したい、他のチームを倒したいという思いはすごくあります。今シーズンはそれを果たすことができて、よかったな、と」

もっとも昨季は多くの収穫を手にする一方で、新たな課題を実感するシーズンでもあった。無我夢中でプレーしていた序盤戦は自分のできることに集中して持ち味を発揮できたが、中盤戦では「欲を出してしまって」、パフォーマンスが落ちた時期もあった。そうした経験も含めて、「すごく充実したシーズンでした」と振り返る。

来季に向けての最大のテーマは、一発一発の威力を維持しつつ、タックルの成功率を上げることだ。自分の形で入ればどんな相手も倒せるという手応えはつかめた。あとは前に出る思い切りのよさを保ちながら精度を高めて、「来季は必ずベストタックラー賞を取りたい」と意気込む。

「まだまだよくなる感覚はあります。終盤戦もこのまま試合に出続けたほうが成長できると感じていて、シーズンが終わらないでほしいと思っていました。もっとできたし、もっとやれる」

この8月にはダイナボアーズのチームメイトであるCTBカーティス・ロナとともにバーバリアンズ(試合やツアーごとに招待された世界のトッププレーヤーで編成される名門チーム)に選出され、フランスでサモア代表と対戦する栄誉にも浴した。実は6月のスペイン戦にも招待されていたが、直前でツアー自体がキャンセルとなり、悔しい思いを味わっていた。試合は14-28で敗れたものの、坂本は後半3分から入替で出場し、約40分間プレー。強豪国のキャップホルダーがずらりと並ぶ中で戦った経験は、伸び盛りの24歳にとってまたひとつ成長の糧になるだろう。

秋にフランスで開催されるラグビーワールドカップを経て12月に開幕する2023-24シーズンのリーグワンは、坂本にとって真価を証明する大切な舞台だ。相手が対策を練ってくる中で2年続けて結果を残せば、プレーヤーとしての格は確固たるものになる。もちろん本人にも、その自覚はある。

「2023年は何もわからないまま、周りに引っ張ってもらいながらやったシーズンでした。今度はわかっている部分がたくさんある中で迎えるシーズン。強みであるタックルを磨いて、さらにチームに貢献して、ダイナボアーズが日本を代表するチームになるようにしていきたい」

トップスピードで懐深く突き刺さる背番号7のビッグヒットが、来季もリーグワンを熱くする。

Published: 2023.09.21
(取材・文:直江光信)